キラキラ
第5章 hungry
「………?櫻井、顔赤いよ」
ふと、大野さんが、不思議そうに、見上げてきた。
「………そう、ですか?」
まさか、あなたの笑顔を見て、心臓が高鳴ってますなんて、言えるわけない。
大野さんが、立ち止まるから、俺も立ち止まる。
近い。
背伸びをするかのごとく、近づいてくる大野さんに、俺は、思わず一歩後ろにさがった。
破裂しそうなほど、心臓が鳴ってる。
大野さんとの距離が近い。
至近距離でみる大野さんの、睫毛がパチパチと瞬く。吸い込まれそうな綺麗な瞳から、目をそらせない。
心臓が鳴りすぎて、痛くなってきた。
大野さんはじーっと、俺を見つめて首をかしげた。
「冷えたかな?……頭痛い?」
「いいえ………大丈夫です」
「そう?」
言って、なんでもないように歩き出す大野さんの後ろを、ひそかに脱力して続いた。
なんとも思ってないからできること。
意識してしまってるから、できないこと。
こんななんでもない距離感にも、それはあらわれる。
俺は、確かにごまかしきれない自分の思いに、気づき始めてた。
大野さんを見てうれしい、大野さんと話せてうれしい、大野さんの笑顔に胸が苦しくなり、大野さんの声にドキドキする。
でも、成就するはずない恋なんて自覚するだけムダだと、違う自分が囁くんだ。
だって。
大野さんには、全くそんな気はないんだ。
今も普通に、俺と言葉をかわす表情には、特別なものは見当たらない。
………当たり前だよな。
俺は、男で。大野さんも男だ。
そんな感情を探すこと自体が間違ってる。
だから、自分の想いに、気がつけば気がつくほど、認めようかと思えば思うほど、現実をつきつけられ、傷ついていく………気がする。
交差するはずのない、永遠に一方通行な片想いなんて。
やっぱり………
「翔ちゃーん!大野さーん!遅いー!」
駅の改札前で、雅紀が大きな声で呼んでる。
「早いな、あいつら」
大野さんが、笑って俺を振り返った。
「走るよ」
「はい!」
俺は、あふれでそうな自分の想いを、また胸の奥の引き出しにしまった。