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キラキラ

第5章 hungry

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六時限目終了のチャイムが鳴る。

待ってました、とばかりに雅紀が立ち上がり、鞄にガサガサと教科書や筆記用具をつめこんだ。

「さっ、翔ちゃん行こっか」

鞄を肩にかつぎ上げ、サラサラの茶髪をゆらして、今にも部活に出ていきそうだったから俺は慌てて声をかけた。

「悪い、今日は………」

「あ、さかもっちゃんの日だっけ?」

「ん。一時間だけ行ってくる」

「リョーカイ」

雅紀は、ぴっと二本の指を額の横にあわせ、それから飛ぶように教室を出ていった。
勉強よりもバスケ。三度の飯より………いや、同じくらい好きなバスケ。
バスケ馬鹿な雅紀らしいいつもの光景。

いつもは、その隣に肩をならべてる俺だけど、今日は寄り道だ。

俺も鞄をかついで、東校舎にある音楽室を、目指す。

音楽準備室の扉をノックするとら中から「はい」、という、いつもの低く響くいい声がした。
「失礼します」と入ると、この部屋の主である、音楽教師、坂本先生が机にむかってた体をこちらにむけた。

「お。待ってたぞ」

「難しいのは、ヤですよ」

俺は予防線をはる。

「お前なら、大丈夫だよ。えー……っと。これな」

坂本先生は、机に積み上げられた本の中から、ファイルを探しあて、俺に差し出した。

俺はパラパラと中身を確認して、げんなりする。

「難しいじゃん………」

「大丈夫だって。お前ならできる」

「簡単に、いわないでくださいよ」

うらめしげにねめつけると、坂本先生は大きな口を開けて、楽しそうに笑った。

坂本先生との、こういったやりとりは、一年前にさかのぼる。

入学当初、芸術の選択科目で、音楽を選んだ俺は、俺がピアノが弾けると知った雅紀らにそそのかされて、ちょびっと披露した。
誰もが知ってるおとぎの国のテーマ曲。

ほんのちょっとだ。

でも、それを聞いてた坂本先生が、音楽準備室からでてきたのが始まり。

坂本先生は目を輝かせて、続きを要求し、挙げ句、あれもこれもと弾かせ、ついには放課後音楽室への出動を命じたんだ。

戸惑う俺が、そこで聞かされたのは、坂本先生のプライベート。

プライベートで、歌を歌っているという坂本先生の練習のおつきあいに、ピアノを弾いてくれないかという。

断ろうと思えば断れたけど、坂本先生の歌声をきいて、俺はオッケーした。

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