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キラキラ

第5章 hungry

朗々と、唄いあげてみせた坂本先生は、授業でみせる三枚目な顔とは、全然違い、とてもカッコ良かった。
音域の広さと、声量が普通じゃない。
何よりも、その深い歌声に、心をゆさぶられた。

そんなわけで学業や部活に支障のない範囲で、ということで、二週間に一度くらいのペースで、練習のおつきあいをし始めたのだった。
もちろん、試合前とか試験前とかはのぞいて。

「さかもっちゃん、まるっきり、公私混同じゃん!!」


時々、部活に遅れるってことを伝えると、雅紀には、アハハって大笑いされた。

だよなあ………。
これ、学校大丈夫??

とは思ったものの、東校舎の最上階の、防音完備な教室で何をしてるかなんて、誰も興味ないわけで。
一年以上たった今も、特に誰にも咎められることなく、坂本先生とのコソ練は続いてる。



「………ちょっと練習時間ください」

楽譜を見て、ピアノに向かおうとする俺に、坂本先生は、鍵を放り投げてきた。

「今から臨時の職員会議なんだ。終わったら鍵しめといて。お前、このあと部活だろ。体育館とりに行くわ」

「分かりました」

よろしく、と豪快な笑顔をのこし、坂本先生は、
いつも持ち歩いてるペンとファイルを手に出ていった。

ふう………と、息を吐き、ピアノの蓋をあける。
ピアノは、嫌いじゃない。
母親がピアノの教師をしてた関係で、小さい頃から慣れ親しんできたから、普通の男子高校生にしたら、ある程度弾ける方だと思う。

俺は、ポロン………と鍵盤をはじき、ゆっくりと指慣らしに、簡単な曲を弾いた。

二、三曲弾いたら、練習はじめよう………

そのまま俺は、気分のままに、弾いた。

ショパン、ジャズ、ミュージカル。
ジャンルはバラバラ。
でも好きな曲を好きなように弾くのは、楽しい。
俺は気持ちよく、没頭してた。

パンパンパン………

突如耳に入ってきた、第三者の拍手に、我にかえった。

目を向けると、拍手をしながら満面の笑みを浮かべた大野さんが立ってる。

「は?………えっ?!なんで………」

俺は、びっくりしすぎて、ひっくり返った声がでた。

「すごい!櫻井、おまえピアノも弾けんの??」

「………はい……え…なんで、大野さん?」

俺は馬鹿みたいにおなじセリフしか言えなかった。
だって、放課後の音楽室なんかで、出会えるわけがない!

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