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キラキラ

第33章 🌟🌟🌟🌟🌟


Kazu


読んでおくように、と、周囲から渡された本やら資料やらに目を通していると、


「サトコさまですが、先ほどご出発されたみたいですよ」


紅茶をそっとテーブルにおきながら、ショウリが
報告してきた。


「そうか……ありがとう」


出発されたか……。


もうこの国にはいないということが、なんだか寂しい。
お一人の帰国も、どうにも心配だったが……どうしようもなくて。
無事を祈ることしかできない自分が歯痒かった。

見送りたかったけど、泣くからやめてくれ、と言われたから、顔も見れなかったし。
だから、俺は明け方まで穴があくほどサトの寝顔をみつめて過ごしたんだ。


ため息をついて、ティーカップを手に取った。

清々しいフルーティーな香りをゆっくりと吸い込んだ。

ショウリに初めて出会った頃は、彼は紅茶の入れ方すら知らなかったのに、今や俺の好みまで把握して、茶葉を取り寄せたりしてくれていて。
一生懸命なショウリは、なかなかに好ましい存在になってきている。


「スコーンをもらってきました。召し上がりますか?」

「ごめん……いらない。おまえ食べていいよ」

「いや、そんなことできません……!」

「俺がいいってんだからいいんだよ。この部屋には誰もいないだろ?ほら」


強引に俺の隣に座らせて、スコーンの皿を持たせた。
最初は、途方にくれたようにしてたショウリも、俺があまりにも食え食えと言うものだから、おずおずと、じゃあ……、と頷いて、ぱくりとそれを食べた。


若いんだから腹も減るだろ。


頑なに遠慮することもなく、素直にもくもく食べるショウリは、なんだか弟のようで可愛らしかった。


「お茶も飲んだらいい」


俺が立ち上がり、紅茶をいれてやろうとしたら、ショウリが、慌てて飛び付いてきた。


「いや!それはさすがに……!」

「なんで?別にいいじゃないか」

「ダメで……ごほっごほっ」


口につめこんだスコーンでむせたショウリに、あわてて手近にあった水差しの水を飲ませる。


「ごほっ……ずみま……」

「ああ、もういい。しゃべるな」


背中をさすりながら笑いがこみあげる。

……サトと離れて辛いのに、こんな風に自分が笑えるなんて思わなかった。

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