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キラキラ

第34章 バースト9



平日だけど、今日は看護師である母さんが夜勤だから、大野家に泊まりにいく予定にしてる。
解散する時間を気にしないでいいから、気分もちょっと開放的だ。


泊まった次の朝、瞬間移動のチカラを使って家に帰り、普段通り制服に着替えて登校すれば、いいだけの話。

……現金なもので、あれだけ煩わしかった自分の能力が、これだけ役に立つとは思っていなかった。
まったく、チカラのコントロールに悩んでいたあの頃の自分に教えてやりたい。


手を繋ごうとする翔をたしなめながら、薄暗くなってきたキャンパスを並んで歩いてると、翔が、夕飯どうしようか?と、楽しそうに言うから、首を傾げた。

てっきり、このまま買い物して、大野家に向かうと思ってたのに。



「え……今日智さんは?」

「デート」

「かずは?」

「でかけるって言ってた。相葉くんと」

「ふーん……」

「夏休みのバイト代が入ってきてるから、懐があったかいんだ。なんでも食いたいものおごってやるぞ」


翔は、えへんと胸を張っている。


そっか……。
俺は、翔と一緒ならなんだっていいんだけどな。


でも、「なんでもいいは駄目」と、言われてるから、俺は自分の気持ちを正直に伝えることにした。


「……じゃあ……我儘言ってもいい?」

「おう。焼き肉か?しゃぶしゃぶか?」

「俺、翔のご飯がいい」

「……俺の?」

「翔のパスタがいい」


見上げると、翔は驚いたように目を丸くして、それから、嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「んじゃ……うまいアサリでも買って帰るか」

「うん」


言いながらするりと指を絡めれる。


「ちょっ……」


慌てて周りを見渡したら、ちょうど誰もいない。
とっぷりと日も沈み、いい感じに暗い。

俺は手を振り払うのをやめて、翔の手のひらの温もりを感じながら、ギュっと握り返した。

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