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キラキラ

第6章 いっぱい  ~hungry ~

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A


翔ちゃんに言われても、すぐには分からなかった。

遠い記憶をめぐらし、あの日の試合会場を思い浮かべる。

二宮が言った中学は、自分の中学が準決であたる予定の学校が、やってた試合の相手だ。

接戦だった。

相手チームに、やたらと俊敏に動くチビがいて。

「あ……っ!」


分かった!!

思わず、ちっさいの!って口走ってしまい、二宮が、ムッとした視線を投げかけてくる。

たった半年前のことなのに、今目の前にいる二宮が、とても大人びてみえるから分からなかった。

対戦相手にいた小柄なやつ。
ユニホームから出る手足が、透き通るように色白で、細くって、華奢で、女の子みたいだと思ったのを覚えてる。

でもそのチビは、ひとたびボールを持たせると、風のように早く切り込んでいき、また、周りの選手の使い方も上手だった。

前年度ベスト4を、無名の学校が苦しめてるって、確か当時は話題になってた。

「そっかあ………」

おもわず、まじまじとみつめると、当の二宮は、困ったような顔をして、ふいっと目を背けた。

ところが、耳だけ真っ赤だ。

可愛いな。
今まで、こんな後輩は、俺の周りにはいなかったタイプかも。

「へえ……楽しみな新人が来てくれたな」

岡田先輩が、親指で唇を触りながら、にやっと笑った。

「俺は、キャプテンの井ノ原。頑張れよ」

キャプテンが、二宮の肩をぽんぽんとたたいた。

「はい。よろしくお願いします」

二宮が、頭をさげる。
分からないことは、そこの櫻葉に聞け、と言われ、頷く二宮に、慌てて訂正する。

「キャプテン、相葉っていわないと、分かりませんって」

「そっか」

はははっと、笑って、そろそろ始めるか、とキャプテンが腰をあげた。

戸惑ってる二宮を手招きして、体育館の壁際につれていく。

「とりあえず、動ける格好を明日からもってきて。今日は、このまま見学でいいよ?」

「あのっ………」

「ん?」

「名前……櫻葉先輩ですか?それとも相葉先輩なんですか?」

二宮が、口を尖らして上目遣いで聞いてくる。

なんだ、こいつ。
いちいち、可愛いことしてくんじゃねえよー!

俺は内心焦りながら、相葉雅紀、と名乗った。

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