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キラキラ

第35章 屋烏之愛


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四時間目が終わって、いつものように裏庭に行こうと、弁当を持って歩いてると、角から曲がってきた人物とぶつかりそうになった。


「おっ……と」


校内履きの青いラインに、上級生だと気がつき、すみません、と、とっさに謝ろうとしたら、


「あれ」


柔らかな声がして目をあげる。


「二宮じゃん……」

「大野……せんばい」


ズボンのポッケに手をつっこんで、にこりと笑ってる。
いつだったか渡り廊下で出会ったときは、恐ろしく冷たかったのに、今日はなんだか雰囲気が柔らかい。

俺は、戸惑いながら、ぺこりと礼をした。


「体育大会以来だな」

「はい……」

「かわりないか」

「はい……」

「潤とはうまくやってるか」

「は……あ、はい……」


思わず赤くなったら、大野は楽しそうに声をあげて笑った。


あの日、櫻井は自分のものだと、発言をした大野。

揺るぎない瞳で、きっぱりとその場にいた全員に宣言したその姿は、なんだかとてもかっこよかった。
そして、歩いて行く大野のうしろを、小走りで追いかける櫻井は可愛らしかった。

あの日は、あらゆることがありすぎて、そこまで考えれなかったけれど、後日改めて思えば、初めて会ったときから感じていた、二人の間のなんともいえない親密な空気は、こういうことだったのか、と妙に合点がいった。

大野はともかく、あの日以来、櫻井を怖いと思わなくなったし。


「あの……いろいろありがとうございました。なかなか御礼が言えなくて」

「礼なら、翔くんに言えよ。あいつが一人でお前のところに、乗り込んでいったんだから」

「……はい」


俺は、こくりとうなずいた。

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