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キラキラ

第8章 バースト

ジャケットが、フワリとどこからか、飛んできて、俺の身体にかかった。

「…………間に合ったかな?」

静かな問いかけ。

柔らかい笑みを浮かべて、こちらに歩んでくるやつが、多分、何か、した。

この、学校の生徒ではないのか、濃紺のブレザーの制服を身につけている。

年は…………同じくらいだろうか?

うつぶせたまま、目だけで姿をおってた俺は、よくわからないけど助かった、と確信してようやく身体中から力を抜いた。

彼は、俺のそばにひざまずくと、はだかれたシャツをあわせ、手早く衣服を整えてくれた。

「…………ありがと」

「………おまえさ、人を助けといて、自分が危険な目にあってたら意味ないよ?」

大きな瞳で、じっと見つめられ、優しい口調で諭された。

「………見てたのか?」

「まあ…………正確には、俺じゃないけど、ね」

よくわからない。

俺は、横たわったまま黙りこんだ。

あちこちズキズキする。

血の味がするのは口のなかが切れてるんだろう。

水、飲みてぇな………とぼんやりしてると、

「ちなみに、動けなくなったのは、チカラを一気に放出しすぎたからだよ」

ギクリとする。

こいつ、俺のチカラのこと知ってる…………。

「…………なんで、それ…………」

「…………なんでって。見たろ? 俺もおまえと同じようなチカラ持ってるからだよ?」

おかしそうに笑って肩をすくめたそいつが、「ほら」と言い、長い指をくいっと上にあげると、俺の身体がフワリと空高く浮かび上がった。

「う………わ………っ…」

瞬く間に、眼下に広がる学校が小さくなってゆく。
重力無視で浮かんでる我が身に戸惑う。

ありえねえっ…………なんだ、これ!

慌ててる俺の横に、フワッとそいつが浮かび上がってきて、並んだ。

「傷の手当てしてあげるから、とりあえずうちに来な」

力抜いて楽にしてて、と言われて、俺の身体はそいつのチカラによって、フワフワと移動を始めた。

すっかり陽もおちた暗い夜空に、二人の人間が空を飛んでいることなんて、誰も気がつかず、誰にも見つかることはなかった。

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