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キラキラ

第8章 バースト

「だめ。野菜も肉も、かずにたくさん食べさせて、体力つけさせるっていう使命もあるんだ、俺」


言いながら、翔は、いろんな野菜を冷蔵庫からだしてきて所狭しと並べ始める。
俺は、かずの華奢な体を思い出していた。



「あいつ、マジで食が細いからさ。だから、体力なくて。チカラ使ったらすぐ寝込むし」


「…………チカラ使ったら?」
 

「うん。使ったあと体力の消耗って激しくない? 潤も、昨日言ってたじゃん。暴発したあと、指一本動かせなくなっただろ。…………まあ、個人差はあるけどね」



そうだ……あんな風に動けなくなったの初めてだった。
怖いくらいに、体を動かす機能が止まった瞬間。


「ちなみに、俺はめちゃくちゃ腹が減るんだ」


玉ねぎを、鮮やかな包丁さばきでみじん切りにしていきながら、翔が、言う。


「どっちかというと、チカラを使いすぎると、腹が減って動けなくなるかな」


「なんだ、それ(笑)」


隣で、人参の皮をピーラーで剥いてゆく。
翔が、受け取って、トトトトトと、これまたみじん切りに。
その横で、俺はピーマンをみじん切りにする。

「上手いじゃん、潤」

「そう?」

「でも、まだ細かくな」

翔が、注文をつける。

「え?まだ?!」

「もっと細かくしないと、智兄が気づく」

…………ほぼ、粉になりそうな勢いなんですが!

俺は、いままでで一番というくらい、小さい細かいみじん切りをした。
もうここまでくると、料理というより、作品だ。

翔がようやくオッケーをだし、全ての材料がフライパンに投入される。
翔が、フライパンを煽りながら、炒める腕前に感心した。

「料理は好き?」

具材を炒める手つきを見つめて、逆にきいてみた、

「好き……というより、必要にせまられて、料理を覚えた感じかな」

親の海外移住が決まった当時、社会人になりたての兄は、異国の地で、暮らすより、日本に残ることを選んだ。高校が決まったばかりの自分も兄について一緒に日本にいたいと訴えた翔に、両親が、条件にだしたのが、食事だったという。

「料理できないなら、日本に残させないって親にいわれて、必死で覚えたんだ。智兄は、あてにならないしね」

言いながら、てきぱき鮮やかに仕上げていく。

そこへ、ただいま~と、のんきな口調で大野さんがリビングに入ってきた。

「お。いい匂い」



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