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キラキラ

第8章 バースト

そんなこといったって…………!

「ああ、もう。こっち向けよ」

翔の言葉に顔をあげても、既に視界は半分。
焦点が微妙にあってない、そんな俺の状況に、翔は、苦笑いして俺の身体を引き寄せた。






結局。

もう一回二人で跳んだ先は、俺の学校の体育倉庫裏。
昨日、初めて、翔と出会った場所だった。

「また、ここから帰んの?」

ははっ、と笑って、翔は、シュンとする俺を伴い、空高く浮かび上がった。

期せずして、二日続けての夜の散歩に、申し訳ないと、思う反面、誰のせいだよ、と八つ当たりしたくなる思いもある。

「ごめん…………」

とりあえず謝ってみたら、翔が、苦笑して乱れる髪の毛をかきあげた。

「…………いいや。もともとお前を動揺させたのは、俺だしな。びっくりさせて悪かった。さっきの状況下では、一番有効だと思ったから…………」

「…………」

「そんな顔すんなよ。キスが初めて、ってわけじゃねえだろ」

「…………」

押し黙ってる俺に、翔が、目を見開いた。

「…………初めて?」

…………悪いかよ。

「マジ?」

「…………」

翔が、ちょっと慌ててる。

「…………おまえ、やっぱり真面目なやつなのな。見た目と違いすぎ」

「…………うるせえな」

うわ、そうか……と翔が、片手で口を覆い、しまった…………という顔をした。
そんな、翔の考えてることが分かり、かえって恥ずかしくなる。
おおかた、ファーストキスを奪ってしまった、と思っているのだろう。

べつに、初めて、には、こだわりはないからそこは気にしない。
問題はそこじゃない。

俺は、ぼそっと疑問を投げかけた。

「………男にも、キスできんだな」

「……俺?」

おまえ以外誰がいる!

「いや、断然女の子がいいに決まってるじゃん」

「…………」

「でも、なんか潤なら、いっかって思ったんだ。おまえにはメーワクな話だったろうけどな」


ふふっと笑って、翔は、空中を進むのをとめ、俺を振り返り、じっと見つめた。

「…………なんなら、もう一回してみる?」

「…………」

夜風がふわりと、翔の黒髪をゆらした。
俺は、こくんと息をのんだ。

「…………冗談だよ。もう跳ぶなよ?」

くすっと笑って、翔が、また空中を動き出す。

…………跳びそうだよ。

チカラが残ってないから、跳ばねえだけ。







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