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キラキラ

第12章 ほたる ~バースト2~

会社の近くにあるわりに大きなこの公園は、緑も多く、ベンチもそこかしこに設置されている。

公園の真ん中には噴水があり、小さい子を連れた親子が、写真を撮っていた。
散歩をしている、老夫婦や、俺と同じように飯を食っているサラリーマンもいる。

俺は、なるべく人が少ないところを選び、なおかつ日差しがポカポカあたるベンチを探して、ぴったりな場所に腰をおろした。


持ってきた水筒には、翔が朝からめんどくさいなと、いいながらも入れてくれた、熱いほうじ茶。

それを、フウフウしながら一口。

「あー…………うまい」

がさがさと、弁当箱をあければ、おれのグーくらいあるんじゃないかというほど大きなオニギリが、3つ整然とならんでいた。

うまそ、と呟き、いただきまーす、とぱくりとかじる。 

中身は佃煮。翔が大好きな貝の佃煮だった。

「あいつ、自分の好物いれてんじゃん………」

クスッと笑って、モグモグ口を動かす。

翔がスーパーでみつけてきたこの佃煮は最近の彼のお気に入りだ。
オニギリの具にしても、ぜってー美味いって!って、数日前の夕飯時に力説してたのを思い出す。

そして、確かに美味い。

俺は、ほうじ茶に、また、口をつけながら幸せな気分で、遠くに見える噴水を眺めていた。
飛び散る水が太陽の光に反射して、キラキラ輝いてる。

頭上では、鳥のさえずり。

緑の木々の香り。

文句のつけようもない、癒しの空間だった。



ふと。

何が気になったわけでもない。

ないが、何かにひかれるように、なんとなく、俺は、左側に顔を向けた。

さっきまで誰もいなかった2つ向こうのベンチにぽつんと一人の少年が座っていた。

色の白い綺麗な横顔だった。

グレーのスエットパンツに、薄い黒のジャンパー。黒のスヌードに顔を半分埋めて、彼はぼんやりと前方の噴水を見ているようだった。

傍らには黒い大きなリュック。



……平日だぜ。あんた、学校は?


俺は、手にしたオニギリの残りを口に運び、咀嚼しながら、なんとはなしにそう思った。
どうみても、大学生には見えない。
むしろ、翔に近いかも。


まあ、いいけどな。
人にはいろんな事情があるのだろうから。


前方を見つめる彼の茶色い瞳が、揺れるようなたくさんの水分をたたえてることには、全く気がつかないまま、俺は、二個目のオニギリに手をのばしていた。

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