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キラキラ

第12章 ほたる ~バースト2~


人混みのこの雑多な雰囲気から、そこだけ浮いてみえる。
丸めた背中が、寂しくて。
ゆっくりした足取りが、何故だか苦しさを伴う。

どうして、こんなに気になるのか自分でも分からない。
でも、なぜか目が離せない。


第六感とでもいうのか、何かがひっかかるのだ。

ぼんやりとその小さな背中を見つめる。


「智兄、カラオケ行こうよ」 

「……んー?…うん………」

「やった! 俺のリクエスト曲歌ってよ?」


「…ああ…………えっ!?」

突如、リクエスト曲というフレーズだけ耳に入り、驚いて隣を歩く翔を見やった。

俺のびっくりした様子に、翔がきょとんとしている。

リクエスト?

「……なにって?」

「なにって…カラオケ」

「はあ? やだよ」

「ええ!せっかくだから、行こうよ!」

「俺は、歌わないぞ」

「なんでだよー?!」

けたけたと笑いながら交わす会話。

翔の笑顔につられながら、あ、と思い、前方に視線をもどせば、丸い背中は人混みに紛れてしまい、見失った。



(………)




一瞬、チカラで視て、追うことを考えた。



俺の能力は千里眼。



能力を行使すれば、見えない遠くまで、視ることができる。
だから、その気になれば、どこまでも対象者を追うことができる。

しかし、その自分の考えに、自分でひいた。


追ってなんになる?
つかまえて、どうしたいんだ?




気になるだけで、チカラは使っちゃいけない。

これは、自分に対して戒めたこと。

俺の能力は、他人のプライバシーを必要以上にのぞくことになるから。

もちろん、知らなくていいことまで、知ってしまう可能性もある。
余計な罪悪感や、後悔はいらない。

立ち止まってしまった俺に、翔が怪訝そうに、声をかける。

「智兄?」

「……ん?」

「…どうしたの?」

「……なんでもないよ」


………そう。なんでもない。


俺は、傍らにある、にぎやかなビルを仰いだ。
カラオケの文字と、客寄せのために大音量で流れる音楽。
真顔になった翔に、笑って聞いてやる。

「…………行きたい?」

翔が、破顔した。

「うん」

「しょうがねえな」

「…………やった!」

「ちょっとだけだぞ」

「分かってるって」

翔に背中をおされ、俺たちは電飾でキラキラしてる入り口に足をむけた。

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