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キラキラ

第12章 ほたる ~バースト2~



閉じられた目。 
苦しそうに寄せられた眉。
色白な顔は、真っ青で。
少しだけあいた唇からは、熱い息が繰り返し吐かれていて、体調が悪いことは、誰がどうみても一目瞭然だった。

「なあ……………自分…大丈夫か?」

目をあわせることができる位置にしゃがみ、細い肩を遠慮がちに揺らす。


閉じていた目がゆっくり開き、潤んだ茶色い瞳が焦点をあわせるように、俺の姿を捉えた。

「…………昼からずっとここで寝てんじゃねーの?体調が悪いんだろ。もう冷えてきたから、帰りな」

優しく言い含めてやる。
 
お節介かもしれないけど。

翔と同じくらいの年齢ということもあるのだろうが、ほっとけない。


「…………はい」


彼は、小さく返事をして、虚ろに視線をさまよわせた。
彼の声は、思ったより柔らかく少しだけ高かった。

彼は、薄暗くなってきている空をみて、何回か瞬きをした。

「……今……何時ですか…………?」

「五時半まわったところ」

そうですか、と呟き、彼はまた目を閉じた。

「……もう少ししたら…帰ります」


直感で、嘘だ、と思う。

でも、帰るから、と言ってる人間にそれ以上かける言葉なんて見当たるはずもない。
まして、見ず知らずの通りすがりのやつ、に。

「……そうか。気をつけてな」

俺は、それしか言えずに、その場をあとにした。






家に帰り、翔が作ったカレーライスを食べた。

今日は、ルーをかえてみたという翔に、美味いじゃん、と言ってやったら、翔はとびきり嬉しそうな顔をした。

風呂に入り、冷蔵庫からビールを手にする。

翔は、課題があるから、と早々に自室に戻り勉強を始めたようだ。

リモコンでテレビの電源をいれた。

お笑い芸人が、集まってネタを披露している。

静かなリビングに響く笑い声をぼんやりと聞きながら、カーテンの隙間から窓の外をみあげた。

「……雨?」

窓につく水滴。
天気予報は、雨だといっていただろうか?


ふと。

考えるのをやめようと思っていたことが、再び、俺の思考を支配しはじめた。

チカラは使わない、と決めていたけど。


…………一度だけ。


俺は、ビールを傍らのテーブルに置き、指をこめかみにはわせた。


意識を集中する。


わき上がるチカラを感じながら、視たい場所をイメージして、一気にその場に意識をとばした。


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