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キラキラ

第12章 ほたる ~バースト2~

ほとんど食べてなかったから、出すものなんてなにもない。

ただひたすら、胃液だけ吐き続けた。

受けた屈辱、情けなさ、恐怖、もやもやすべても体から排除したくて。
俺は、吐き続けた。


…………やがて、嵐がおさまる。


「…………もう大丈夫か?」


咳き込み、激しかった呼吸がおさまってきて、俺は、背中をさすってくれていた傍らに座る男を、ぼんやり見上げた。
視界が涙で霞んで、よく見えない。

…………今度はこいつにヤられんのかな、俺。

次から次へと、ついてないな…………。
でも、もう逃げる元気もないや…………。


そんなことを思いながら、目の前の男に、焦点をあわせてゆく。

漆黒の髪をさらりとゆらし、俺を心配そうにみつめる大きな瞳。

久しぶりにこんな綺麗な瞳を見た、と思うほど、その目は澄んでいた。
ぽってりした唇をあげ、彼は苦笑いした。

「スゲー汗。待ってな。タオルとってくる」

ごみ箱を持ち、部屋から出ていくすらっとした後ろ姿を見送り、俺は、自分の置かれてる状況を確認した。

…………今さらだが。裸ではない。

自分のものではない服を着せられている。
少しサイズが、大きめな某有名スポーツメーカーのロゴが入った上下のスエット。

今いる部屋は、家具が最小限におさえられ、すこし殺風景だが、清潔感のある綺麗な部屋だ。
空気清浄機らしき機械が、部屋の隅で静かに作動してる。

「…………って」


身体を動かせば、あちこちがギシギシ悲鳴をあげている。
頭痛もひどかった。
火照った身体が、熱があることを訴えてる。
腰回りも異常にだるく、俺は、たまらずおこしてた身体をもう一度横たえた。


公園に着いたまでは覚えてるんだけどなあ…………

ずっと、うつらうつらしていた。
暖かい日差しにさらす身体は、何をしても寒くて、だるくて。
身体をおこすこともできないまま、死んだように、ベンチに横になってた。


どれくらいそうしていたか、「自分、大丈夫か」の、声で、ふと目をあけたんだ。
柔らかいトーンの声音だった。
優しい光に、心配そうな色をたたえた瞳で、俺の目線で聞いてきた人がいた。
綺麗な顔の人だなあって、ぼんやり思った記憶がよみがえる。


「目、覚めたの?」

「うん、つい今」

その時、その記憶と同じ声が、ドアの向こう側で聞こえた。

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