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キラキラ

第13章 ミチシルベ

「俺が…………初めて担当した子いるでしょ」


ぽつりと言われ、俺は、記憶の引き出しをあける。
確か、調子が良くなったから、一昨日一般病棟にうつった子がいたな。
松本くんと楽しく会話ができるほどにまで回復してたはず。


だから、


「容態が急変して亡くなったんだ、さっき」


松本くんの言葉に耳を疑った。
唖然として、問う。



「…………なぜ?」



「なんか、小児科の先生にいろいろ聞いたけど…………頭に入んなかった」



松本くんは、その大きな瞳から、綺麗な涙を再びポロポロっと落とした。


俺は、まだ報告は聞いてなかったため、心底驚いた。


ぐすっという松本くんの鼻をすする音を聞きながら、


「…………そうか」


静かに頷いた。



死。



医療に携わる職業についた以上、必ず向き合わざるをえないことだ。

この先もずっと。




(…………辛いな)



松本くんは、指で涙をぬぐい、はあっと息を吐いてる。
うつむいて、これ以上泣かないように唇をかんでる。


「…………」


俺は、少しだけ迷ってから、そっと右手を松本くんの肩にまわし、彼のふわふわした髪に指をもぐりこませてから、ゆっくり頭を俺の肩に寄りかからせた。



「………泣くのは…今だけにしろよ?」



「…………っ」



低く囁いてやると、俺の肩に頬をおしつけて、松本くんは、頷いた。
声をあげずに、松本くんは、再び静かに静かに泣いた。
俺は、その間、ポン……ポン……と一定のリズムで、子供をあやすように頭を撫でてやった。



風が優しかった。






しばらくしてから、落ち着いたのか、松本くんは、ふふっと笑って体をおこした。


「…………ごめん」


「…………いや」


松本くんは腕で、ぐいっと顔をふいた。
俺は、そんな彼を見て、わざと冗談ぽく笑ってやる。



「泣きたくなったら、いつでも呼んでくれていいぞ?」


「…………ほんと?」

 
松本くんもおどけて、のってきた。


「おお。この肩でよけりゃ、いつでも」


ポンポンと自分の肩をたたいて、にこりと笑う。


すると、松本くんはふわりと微笑み、ゆっくり俺に手をのばした。

 
「…………櫻井先生」


俺は、松本くんの広い胸に抱き締められた。

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