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キラキラ

第13章 ミチシルベ

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Matsumoto side



救命は眠らないとは、よくいったものだ。


研修医として、ここに来て、俺は、いやというほどそれを実感している。


もちろん、どの科も激務で大変なのは知ってる。
だが、ここ救命は、一本のホットラインから一斉に戦争が始まるような独特な緊張感に満ちあふれてる。


今日の当直医は、櫻井先生と山田先生と研修医の俺。
各科の当直の先生も、せわしなく出入りしていた。


時刻は午前2時。

「救急車来ました!」

出迎えにいってた看護師たちがもどってきた。

さっき搬送された患者の処置も途中なのに、次々に運び込まれる救急患者。

今が夜中だということを忘れそうになるほど忙しい。
俺は、少しでも先生たちの動きを盗めるよう、傍らにひっつきながら、自分に課せられる仕事をもこなしてゆく。


「松本先生、こっち入ってください」


「はい!」


ついさっき搬送された患者。
声をかけながら、懸命に処置していたら、モニターの音が突如変化した。

走る緊張。

次々飛ばされる指示と、素早く歩き回る足音。
俺もおいてかれないように、必死で立ち回る。


「櫻井先生、かわります」


心肺停止に陥った患者に、心臓マッサージを施していた櫻井先生の光る汗を見て、俺は、交代を申し出た。


「頼む」


短く言いおいて、櫻井先生のかわりに患者に向き合う。
櫻井先生は、ずれた眼鏡をおしあげて、肩口で汗をふき、看護師に指示を出し始めた。
俺も、必死でマッサージし続けた。





「お疲れ様です」

「……ああ、お疲れ」

なんとか、持ち直した患者の処置を終え、集中治療室に送り込んで、様子を見終えた櫻井先生が、疲れた顔でもどってきた。

俺が、そっと声をかけたら、顔をあげて頷いてみせる先生。
その顔は、疲労の色が濃い。

「先生大丈夫ですか?」

俺は、気になって顔をのぞきこむ。

「なんで?…大丈夫だよ」

くすりと笑って肩をすくめる櫻井先生。

「顔色悪いですよ」

「大丈夫だって」

なおも食い下がる俺に、櫻井先生は軽く手を振って拒否した。

「ありがとな」

「…いえ」

激務なのは皆一緒。
山田先生も俺もほかの看護師も、ほぼ全員ほとんど休憩していない。




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