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キラキラ

第13章 ミチシルベ

「え…………?」


「割れた眼鏡のさ、レンズで切ってんだ。ぱっくり」


ガーゼをはずして患部をみせてくれる。
振り上げた手がヒットしたあたりは、色がかわっていて、細かい傷にまぎれ、こめかみから右目のよこにかけての大きな傷口が目につく。
。未だに血がにじみ、絆創膏じゃ追いつかなさそうだった


櫻井先生の綺麗な顔に、マジで、あいつなんてことしてくれんだ。
退院したら1回シメにいくか。


物騒なことを思っていたら、


「松本先生、縫合くらいしたことあるよね」

 
櫻井先生が、さらに物騒なことを言い出した。


「…………はい?」


思わず聞き直す。


「ちょっとやってくれない? さすがに自分ではできないし、山田先生の手を煩わしたくないし」


ちょ、ちょっと待って。
俺は、慌てて手を振った。


「俺が?」


「他に誰がいるんだよ」


「縫うんですか?」


「丁度練習にもなんだろ」


ほら、縫合セット、と、ぽん、とトレーを渡された。


え…………。


櫻井先生の顔を?!


俺が処置すんの?!


無理。無理無理。絶対無理。


「いや、俺、へたくそだし……」


「おまえ、医者だろ」


言いかけた言葉を、ぴしゃりと遮られた。
押し黙る俺に、櫻井先生はニコリと笑った。


「少々失敗してもかまわないから。やってよ。つか、やれ」


上司命令だ、と言わんばかりに言い放ち、櫻井先生はベッドに寝そべった。
俺は、震える手で、トレーを握りしめる。


突然の展開に目眩がする。



ねえ…………知ってる?櫻井先生。

俺は、あなたが好きなんだ。

それはもう、学生の頃から、ずっと。

あなたと同じ職につきたくて、同じ場所で働きたくて頑張った。

だから、いまここにこうしている幸せを感じてるよ。




なのにだ。




惚れてる相手の顔を縫えって?!


無理だろ!緊張して、刺しちまう!



「早く………いてーんだってば」


櫻井先生が焦れたように催促してきた。


「あの…………麻酔しますよね?」


「あたりまえだ、ばか。麻酔なしで縫う気かよ?!」


半分あきれながら、笑う櫻井先生は、笑うと痛いみたいで、ちょっと顔をしかめた。

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