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キラキラ

第13章 ミチシルベ

まじまじと、櫻井先生の顔をのぞきこむと、くーっという寝息。

うそ…………。

完璧におちてる。


山田先生がくすっと笑って、俺の頭をぽんぽんとした。

「きっと、おまえの処置がうまかったんじゃないか?」

「…………まさか(笑)」

わずかな時間、身体を横たえただけで、おちれるほど疲れていた、ということなんだろうな。
俺がゴソゴソ顔をいじくりまわしても、関係ないほどに。

櫻井先生の疲労の色濃い、顔色を思い出す。

多分、いつもの櫻井先生なら、あんな暴れてる患者の振り上げた拳をまともにくらうなんて、ありえないから。


「いいよ。このままちょっと寝かしてあげよう。
ホットラインなったら、起こすから、松本先生も休憩行っといで」


山田先生がウインクして、カーテンのすきまからでていく。

この先生もいちいちやることがスマートで男前だった。
彫刻を思わせるような鼻筋に、ガラスのようなキラキラした瞳。
櫻井先生とは、また違う美しさだ。

それに、ピアス穴があるところをみるに、自分と同じ匂いがする。
絶対、昔はヤンチャだったよね?
今度飲みの席ででも、聞いてみようか。


ふと、視線を、櫻井先生に戻した。


閉じられた目元は、くるんとしたまつげ。
ふわふわの黒髪にかくされて、表情はイマイチ分からないが、少しあいた口に、思わず笑みがこぼれる。


無防備すぎんだろ。


手のひらで、そっと櫻井先生の頬にふれた。
そのまま顎に指を持っていき、軽く持ち上げる。

ぴくりとも動かない表情。

俺は、ふう、とため息をつく。


 櫻井先生…………好き。

 ずっとずっと。

 昔からずっと。

 あきれるほど、一途なんだよ、俺。

 それもこれも。
 
 あなたが、キスなんかしたから、 だ。


「…………忘れたなんて。いわせない」


小さく呟いて、引き寄せられるように、自分の顔を寄せた。


柔らかい唇に自分のそれを重ねる。


カーテンの向こうにはたくさんのスタッフがいて。
いつ見られるか、おかしくない状況だったけど、俺は、重ねるだけじゃなんだか我慢できなくなり、先生のぽってりした厚い唇をしばらくついばんで、楽しんだ。




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