
キラキラ
第13章 ミチシルベ
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「お疲れ様でしたー」
その場にいるスタッフに声をかけて、帰ろうとしている櫻井先生を見かけ、俺は、慌てておいかけた。
「櫻井先生、ちょっと待って」
「?」
ラフな白いシャツに、細身の黒いパンツ姿がよく似合ってる櫻井先生は、くるりと振り返った。
顔の横にある白いガーゼが痛々しい。
だけど、眼鏡をかけてない櫻井先生の素顔は、予想をはるかに上回る破壊力だった。
こちらを見つめるくるっとした丸い大きな瞳に、ドキドキがとまらない。
ナースや看護師長にまで、櫻井先生コンタクトにしたらいいのに、と言われているのを耳にはさみながら、ざわざわする心を押さえるのに苦労した。
山田先生までもが、感心するように、櫻井先生素顔やばいっすねって言ったときには、何がやばいんですか?!とつっかかりそうになった。
別に俺のものでもないのに。
櫻井先生は、櫻井先生で、俺は、関係ないのに。
「………帰りは、…………そのどうやって帰るんですか?」
「え…………まあ。車で来てたけど、眼鏡壊れたから運転できないし。電車でボチボチ帰るよ?」
櫻井先生が、にっこり笑う。
そう言って立ってるのを見るだけで、どうしようもなく愛しい気持ちが、あふれてくる。
「俺、車なんです。送ります」
「ええ………いーよ。いーよ」
「いえ。送ります。俺も帰ります。待っててください!」
言って、唖然としてる櫻井先生をおいて、ロッカールームにむけて走り出した。
駄目だ、オレ。
さっき、櫻井先生を処置した時から、どんどんおかしくなってきてる。
どさくさまぎれに、処方箋だと言ってキスしたり、思わず抱きしめたりしたときも、たいがいヤバいやつだったけど。
とにかく、今は、櫻井先生のそばにいたくてしょうがない。
誰にも、この先生を見せたくない、とすら思う。
きっと、さっき櫻井先生の傷口を縫合したときに、俺の心まで縫いとめられたんだ。
そんな、笑っちゃうようなキザな台詞すら、今の俺には受け入れることができる。
つまり余裕を完全に失ったな。
俺の心の中に、櫻井先生を好きと思う容器があるとするならば、完全にあふれだして、とめられなくなってる…………そう。そんな感じ。
