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キラキラ

第13章 ミチシルベ


先生の家は、隣の区にあり、病院から30分ほど車を走らせたところだった。

ナビゲーションの案内に従い、白い三階建てのマンションの前で、停車する。
聞いた住所からすると、ここの三階が櫻井先生の部屋みたいだ。
俺のアパートはここから、さらに10分ほど走らせたところにあるから意外に近いことが分かった。

こんな些細なことも、わかって嬉しい。

今度飲みに誘ってみようかな。

ふふっと笑って、

「着きましたよ」

と、声をかける。

「ありがとう。上がって?コーヒーくらい飲んでいってよ」

「…………」

すごーく魅力的なおさそいだった。
だが、当直明けで、大怪我までしてる櫻井先生だ。
できることなら一刻も早く休ませてあげたい。

俺は、断腸の思いで、首をふった。

「また今度いただきます。今日は、先生早く休んでよ」

櫻井先生は、じっと黙って俺を見た。
そうして、にこりと微笑んだ。

「…………ありがとう。じゃあ、また飯でもおごるよ」

「車、病院でしょ、明日迎えに来ましょうか?」

「いや、大丈…………」

言いかけて、櫻井先生が「ああっ!」と声をあげて右手で口をふさいだ。
ただならぬ気配に、俺まで慌ててしまう。

「なに?なんすか?」


「家の鍵…………病院だ」


「…………え?」


「………車置いてかえるから、忘れないようにキーをロッカーにそのままおいてきたんだけど…………キーホルダーに一緒に家の鍵もつけてた」

櫻井先生が、ああ…………しまった…………と髪をくしゃっとかきあげた。

「あ、ごめん。ごめん。松本先生帰って?」

「…………どーすんですか?」

「取りに戻る」

「電車で?」

「…………ああ」

「…………」

「…………」

「ぷっ…………」

「あははっ…………」

二人で顔を見あわせて、笑った。

「もー…………なにしてんすか…………」

可愛いというしかない。

俺は、腕時計に目を走らせた。
時刻は昼をすぎたところだ。
腹の虫もそろそろくうくう鳴り出してる。

「…出前だけど、俺んちで、昼飯一緒に食べません?そのあと、また取りに戻るのおつきあいしますよ」

「でも…………」

「俺んち、ここから10分くらいだし」

「…………」 

「ね」

「…………すまん」

「いーえ」

ふふっと笑ってそのまま車を発進させた。

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