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キラキラ

第13章 ミチシルベ


「綺麗に片付けてんな」

「あんまり見ないでくださいよ(笑)」

櫻井先生が、俺の部屋にいる、というだけで、テンションがあがる。

注文したラーメンが届くまでの間、と、コーヒーの用意をしながら、そっとうかがいみると、先生は部屋の真ん中にあるソファに座って、物珍しそうにいろいろ眺めてた。

ローテーブルの上に重ねてた、大量の参考書や医学書を見て、櫻井先生は、パラパラとめくりながら、
「ちゃんと勉強してんじゃん」
と、笑う。


「あたりまえじゃないですか」

「…………今度、俺が使ってた本で良ければやろうか?」

「本当ですか?」


嬉しい。
こんなやりとりも、嬉しくて楽しくてたまらない。

俺は、にやける顔をおさえきれぬままに、先生の前に、どうぞ、と、マグカップをおいた。

先生は、コーヒーの香りを深く吸い込み、いい匂い、と呟いた。

俺は、食べ物は、あまり頓着しないが、コーヒーだけは、こだわってる。

俺がセレクトした豆を、先生と一緒に飲める日が来るなんて。

今まで、地道にいろいろ頑張ってきた甲斐があったってもんだな。

俺も温かいコーヒーを一口含んで、幸せを噛みしめた。



「…………松本先生は、彼女とかいるの?」


ふいに聞かれ、俺は、動きをとめた。
黙って先生を見つめる。
先生は、興味深い色の目でこちらを見返す。

その瞳の裏に隠された真意を読もうと思ったけど、何もなさそうだった。
ただただ純粋に聞いてきただけ。

ただそれだけ。



………なんだよ。……………俺にそんな質問する?


妙なことを口走りそうで、俺は、逆に先生に問いかけた。

「…………櫻井先生は?」

すると、櫻井先生は苦笑して、ゆるく首をふった。

「…………こんな職業だと、出会いなんてないよ」

「ずっと?」

「…………いた時期はあったけど。すぐフラれたな」


「なんで?」


「…………知らね。 時間がほとんど合わなくて、会えなかったからじゃない。」


「………じゃあ、…彼女いない歴は?」


「……………うーん」


記憶を辿ってた櫻井先生は、はた、と我に返ったように
…………って、なんで、俺が聞いたのに俺が答えてるんだよ?
と、笑った。


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