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キラキラ

第13章 ミチシルベ

「俺も……彼女なんていませんよ」


櫻井先生が促すもんだから、しぶしぶ言ってやると、櫻井先生は楽しそうにソファの下に座ってる俺の顔をのぞきこんできた。


「へえ………彼女いない歴は?」


「ずっといない。俺好きなひとがいますから」


「へえ!」


櫻井先生が目を丸くした。


「ずっと?同じ人を思い続けてるの?」


「はい」


「へえ…………」


感心したように頷く櫻井先生は、純粋に驚いた瞳をしてる。
自分が関わってるなんて夢にも思わない、そんな顔。
そんな先生に、俺は心底ガッカリした。


いや、そりゃ気持ちを伝えたこともなけりゃ、そんな話をしたこともないけれどもさ。

俺、あんたにキスをしたことも抱き締めたこともあるよ?


……………普通、気がつかねーかな?


自分に何らかの思いは持ってるものだって。

好意を寄せてくれてるものだって。


思わない?


………そこまで鈍い?


分かりやすくテンションの下がった俺に、櫻井先生は、とたんに眉をさげた。


「あ……こめん。聞かない方が良かった?」


「…………いいえ?」


俺は、笑って首をふった。
笑える自分が偉い、と思った。



…………だいたいさ。

ことの発端は、あなただよ。



「一人の人を思い続けてるなんて、松本先生は一途だね」




キスして、俺を煽ったのは、あなただ。

……責任とれよ。




「うまくいくといいな」




のんきなことをいって、柔らかく微笑む櫻井先生は残酷だ。
俺は、唇をかんでうつむいた。



自分が俺にしたことは、忘れてしまってるんだろうか。

というより、本当に何も考えずにやったことだから気にもとめてないのか。




………誰にでも同じことしてんのかよ?




「………」



俺の心の中の何かが弾けた。


思うより先に体が動いた。


床から立ち上がり、櫻井先生の横に座り、先生の細い腰に手を回した。
そのままぐっと抱き寄せる。


「?!」


驚いた顔をする櫻井先生と目があった。


怯えも何もない、ただ純粋に驚いた瞳に苦笑して。


「…………覚えてないんですか」


囁く。


「…………何を?」


「あなたが俺にキスしたこと」


櫻井先生が何か言おうとして口をあけたところを、俺は、かみつくようにふさいてやった。




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