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キラキラ

第13章 ミチシルベ

……………とはいえ、俺も頭のどこかは、冷静な部分が残っていて。
ここで、暴走したらダメだ、と必死にもう一人の自分が警鐘を鳴らしてた。

業務に差し支えるようなことはできない。
明日からも同じ場所で、チームとして働くのだから。

それに、今までの一途な思いを、一瞬で無にはしたくないよ。

だから。

唇を重ねるだけで、すぐ離すつもりだった。

先生が身をよじらせて、逃げる素振りを見せたら、すぐ、冗談だ、と言うつもりだった。




だけど、……………抵抗しないんだ、この人。




薄く開いてた口に、舌をねじこんでみたけど、先生は、応えないかわりに、逃げもしない。
俺の腕をつかんで、息がしづらそうな苦しそうな顔をしてるけど、暴れるわけでも……………ない。

俺は、ソファの背もたれに櫻井先生をおしつけて、ことさらに丁寧に口づけてやった。
水音が、いやらしく響くけど、逃げないのをいいことに俺は、離してなんかやらなかった。


「……………んっ…………んう」


櫻井先生が、苦しそうに小さく声をあげた。

その声が更に俺を煽った。
俺は、あいた右手で先生の脇腹をさすりあげた。
そこて、初めて先生は、俺の手をとめるような仕草をした。


「…………………」


ここまでか。


ピチャッと音をたて、抉るように先生の口のなかを蹂躙してから、俺は、ゆっくり唇を離した。


「……はっ………………は…あ…………」


はあ………はあ…と、息を弾ませてる櫻井先生が、俺を見上げる。
俺の腕をつかんでる手は、細かく震えてた。
半分あいた唇も震えてる。

俺は、至近距離で、先生をじっと見つめた。

二重の大きな瞳は、潤んでるが、怒りの色も悲しみの色もなかった。

むしろ、上気した頬と、真っ赤な唇が、やばすぎるほとの色気を醸し出してた。


「……………怒らないんですか?」


ぽつりと問う。


「……………怒って………ほしいのか?」


小さくかえされて、ううん、と首をふった。


もうひとつ聞いた。


「…………俺を軽蔑しますか?」


「軽蔑して…………ほしいのか?」


俺は、また、ううん、と首をふった。

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