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キラキラ

第13章 ミチシルベ

櫻井先生は、息を整えるように、何度かふう…………と深呼吸をして、俺の目を真っ直ぐに見つめて、

「……………覚えてるよ」

と、言った。


「……………あの時は、怪我をするたびに、俺んとこに来る松本先生…………松本くんが可愛くて。軽い気持ちで思わずしてしまったんだ」


「思わず?」


咎めるように繰り返し、俺は眉をひそめた。

思わず。

違和感のある表現だ。

思わず、で、そんなことできるもの?
なに言ってんだよ。
だったらさ。


「…………俺の他にも…他の患者にもそうやって言って、キスしたりしたんだ?」


とんだ医者だな、と嫌味を含めた声音で吐き捨てたら、


「松本くんだけだよ」


「……………」


ぼそりと、言い、櫻井先生は俯いた。
俺は、腰にまわしてる手を少し緩め覆い被さっていた体をおこした。


「松本くんだから、キスしたんだ。……でも……」


先生のふわふわした黒い髪が目の前にあるが、
表情はよく見えない……………。


先生はうつむいたまま、また、ぽつりと言った。


「…………ごめん。軽率だった。嫌だったよな」


「…………」


そんなこと言ってない…………。

俺は…………



「なあ。じゃあ、反対に聞くけど」



おもむろに顔をあげた櫻井先生は、さっきまでとは違う鋭い瞳で俺を突き刺した。
嘘やごまかしは認めない、という顔。

うってかわって、強い気持ちを含む声音に、俺は、こくりと息をのんだ。



「今のキスの意味。教えろよ」


「……………」


「思わず?」


「違う…………俺…」


櫻井先生が、大きな瞳で、真っ直ぐに俺を見据える。


「………」


もう黙っていられなかった。



「櫻井先生が…………好きなんだ」


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