キラキラ
第13章 ミチシルベ
「…………」
「…………」
沈黙。
櫻井先生の視線に耐えきれず、先に目をそらしたのは俺だった。
のろのろと、櫻井先生から体を離し、隣に深く座り直す。
ギシッという音が、静寂の中、やけに大きく響いた。
…………なんか言ってよ。
櫻井先生は、じっと黙ってる。
俺に何をどう伝えたらいいんだろう?と、考えてるようにみえる。
…………断る言葉でも考えてんだろうな。
背中に、嫌な汗がじわりと吹き出てきた。
心臓が、どくどく鳴り響き、先生に聞こえるんじゃないかとすら思う。
今すぐこの場から逃げたい衝動にかられ、俺は、大きく深呼吸をした。
触れてる部分が熱い。
櫻井先生の体温が熱い。
俺、これでこっぴどく終わった場合、明日からどの面さげて仕事したらいいだろう?
何事もなかったことにできるかな………俺。
自信ねぇなあ……………。
沈黙が苦しくなり、
「…………あの」
「松本くんが」
言いかけた台詞は、櫻井先生がぽつりと言った言葉に遮られた。
「松本くんが。ずっと好きだったって人は……………俺?」
「…………そうです」
「俺がキスしたから?」
「…………その前から好きでした」
「…………」
「あの…………」
「いいよ」
「え?」
「俺でいいなら。付き合ってもいいよ」
俺は、相当の間抜け面をしていたのだろう。
櫻井先生は、くすくす笑って、固まってる俺の顔を下からのぞきこんできた。
「…………嫌だ?」
「いや、嫌じゃないっ…………!でも」
どうして?
こんな簡単に気持ちが通じるなんて思ってなかったから、すっげー混乱してる………俺。
櫻井先生は、楽しそうに指摘した。
「なんで、って顔してる」
「…………はい」
だって、そうだろう?
嬉しさより、驚きの方が勝ってるんだけど。
フラれるだろうから、明日からどんな気持ちでいようかとシュミレーションしてたくらいなのに。
「まあ…………ひとつには、俺が、男だからとか女だから、とか、いう偏見がない人だったってこと」
「はあ………」
……どっちもいけんだ。
「………あとは。おまえのキスが巧かったからかな」
「は?」
そこ?
櫻井先生は、ついに我慢できない、というように笑いだした。