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キラキラ

第15章 1000回言って

俺は、じっと黙って潤くんを見つめた。

潤くんは、そんな俺の視線の意味に気がついてるのか、いないのか。
ふい、と顔を背けて、この話は終わり、とばかりな、雰囲気を醸し出してきた。


……………まあ。別にいいけど。


潤くんの焦り方に少し違和感はあるが、まあ結局のところ、二人で過ごしてる時間中に、なにかがあった、ということだろう。


夫婦喧嘩は犬も喰わないっていうし。

ほっとくのが、得策かもね。


俺は、ゲームに再び意識を集中させた。



***** *****


撮影がはじまる。


企画に沿ったシチュエーションで、ポーズを求められる。
今回は、これ何年か前にアイドル雑誌でやったような………というような可愛らしいものを要求され、潤くんも俺も内心苦笑いだった。

ハートの風船持ってお互い見つめあって、と言われた時には、笑いをこらえるのに必死。


「……………笑うなよ、ばか」

「潤くんこそ……………(笑)」


ひそひそと小声でやりとりしながら進む撮影も、あと少しとなってきたところで、俺は、立ってるのがだんだん辛くなってきていた。

床で寝た昨夜の影響か、冷えたせいなのか、もともと悪い腰が、痛みを伴って俺を襲う。


「……にの?」 


様子がおかしいことに、いち早く気がつく潤くんはさすがだ。


俺は、平気と告げ、何事もない顔を続けた。


「…俺にもたれろよ」


背中合わせで座るシチュエーション。
小声で潤くんが指示してきてくれる。
俺は、くすっと笑って、小さく首をふった。


「ありがと、大丈夫。あんまくっつくと、俺、潤くんの奥さんに怒られちゃうじゃん」


「……………え?」


潤くんが怪訝な声をあげて振り向いた。


「……………奥さん?」


俺は、潤くんの反応にきょとんとしながらも、うん、と頷く。


「誰のこと?」

「……え?」

「なにいってんの?にの」

「なにって……」


本気の疑問符に、戸惑ってしまう。

てっきり、うるせえよって、笑って返してくれる展開になると思ってたから。そっちこそなにいってんの?なんだけど。


「翔さんに怒られちゃうなって……………」


「は?なんで翔さんが関係するの?」


俺の中で、何気に感じてた違和感が、はっきりと形をなした瞬間だった。


潤くんが、「翔さん」って言った。


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