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キラキラ

第15章 1000回言って

「しんどかったら、言えよ。松本あたりに代わってもらうか?」


「…大丈夫だってば」


この相葉さんは、メンバーとして心配してくれている。

たたそれだけだ。

それだけなのは分かってるけど、かけてくれる言葉が嬉しくて、不覚にも泣きたくなった。







収録が始まる。

二面の壁を前に、天の声役のアナウンサーがどちらがどちらを担当しますか?とのんびり聞いてきたから、相葉さんが、ふふっと笑った。


「俺が難しい方かなあ?」


「あたりまえでしょう。なに言ってんの」


すかさず返す俺らのやりとりに、客席の笑いをいただきつつ、遠慮なく易しい方の壁の下にスタンバイする。
二宮くんが、非力だというのは、どこの世界も共通みたいだ。


スタートの合図と共に登り始めたが、すぐに息があがってきた。


と、いうよりも。


取っ手や、岩をつかむ手に力が入らない。
体が重だるくて、持ち上げることが難しい。


考えてみたら、最近まともに飯も食ってなかった。
眠って起きたらもとに戻れると思ってるから、何度も確かめるのに起きてしまうから、眠りも浅い。
寝てない、食ってない、で、このゲーム担当はしくじったかも。


くっそ……


非力な二宮くんキャラでごまかせるのも限度があるだろう。


最低限なことはしなくちゃ。


震える腕で、頂上を目指す。

途中得点ボタンを押し忘れたのか、翔さんたちから、下!下!っと声がかかる。

え?

と、視線を下におろした瞬間、視界がぐるんとまわった。


「っ……」


一気に暗くなる視界。

岩にかけていた手から、力が抜けた。






「二宮!」


「二宮さん!」


「……ぁ」


口々に俺の名を呼ぶ叫び声が耳に届き、寄せる波のように、意識がもどる。



……落ちたのか?俺。


閉じてた目をぼんやり開くと、まず、視界に入ったのは、頭上のスタジオの照明。

そのまぶしさに目を思わず細めると、頭側から、焦った顔の相葉さんが現れた。


ぎょっとして、体をおこそうとしたけど、重くて言うことをきかない。

だけど、背中に感じる体温や、うしろからまわされたたくましい腕に、相葉さんに抱かれてることが分かった。


心臓が跳ね上がる。


頭は、ぐらぐらしてるのに、至近距離で感じる久しぶりの相葉さんの香りに、パニックになった。






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