キラキラ
第2章 ねがい星
「…………!」
素早い動きだったから、周りにはばれてないが。
俺は、唖然として目の前の男を見上げた。
(こいつ……)
そいつは、口角をあげてニヤリと笑い、うやうやしくお辞儀をしてきて。
「……お疲れさまでした」
…………殺意を覚えた。
控室にもどり、そばにあったゴミ箱を蹴り飛ばして、ソファーに荒々しく座る。
手の甲で、何度も唇をこするけど、感覚が甦って、気分が悪くてならない。
しまいには、触られたあちこちまで、虫酸が走り、本当に吐きそうになってきた。
何度も深呼吸して、鞄の中のスマホに右手をのばす。
片手でアプリを開き、一言。
[今から行く]
その手をそのまま、ソファーに投げ出し、左手で引き裂くようにシャツのボタンをはずした。
(なんなんだ……)
訳がわからない。
こんなたちの悪いやつと、仕事をしたのは初めてだった。
しばらく、放心したように動けなかった。
コンコン、という遠慮がちなノックの音で我に返る。
「……はい」
顔をのぞかせたのはマネージャーだった。
「お疲れさまです……帰り、どうします?」
「あー……いいや。寄り道するから自分で帰る」
「分かりました」
そのままひっこみそうになった後ろ頭に、何気ない風を装い、問いかける。
「あ……なあ、さっきの撮影って相手のモデル、あれなに?」
「ああ……なんか、今日の雑誌社の専属らしいですよ」
「……当分、そこの撮影は、俺パスな」
「……え?」
もう帰れよって、手をひらひらふって話を切り上げた。