キラキラ
第19章 バースト3
……あれ……
出汁のいい匂いと、トントントンという包丁をあやつる音に誘われて、目を開けた。
ぼんやりみえる暖かい色の照明は、眩しくない程度にまで押さえられている。
視線をさまよわせて、窓の外を見るともう真っ暗だった。
妙にスッキリした頭は、長い時間眠ってしまっていたことを意味している。
俺は、小さく欠伸をして目をこすった。
……体が落ち着くと心も落ち着くものなんだな。
ふうっと大きく深呼吸をしながら、体にかぶせられたいい匂いのするタオルケットをぎゅっとつかんだ。
……柔らかい手触りの、この、赤い派手な柄は翔のものだ。
鼻先までひきあげると、翔の香りがする気がして、なんだか嬉しい。
さっきまでの翔とのやりとりを思い出す。
すごく、幸せなことを、彼に言われた。
……俺は、その返事をしたのだろうか。
なしくずしに意識を手放してしまったから、自信がない……。
「……翔?」
横たえてた体をそっと起こして、小さく呼びかけた。
「……あれ。起きたか。大丈夫か?」
キッチンから翔が声をかけてくる。
俺は、頭を軽くかたむけ、頭痛がないことを確認して、頷いた。
「……うん」
翔が笑顔で歩みよってくる。
そうして、俺の傍らに座り、額に指を滑らした。
熱はないな、と呟き、ニコリとした。
「……心配したぞ」
「……ごめん」
はにかんで謝ると、翔は眉を下げた。
そうして、俺の頭をクシャクシャと撫で回した。
くすぐったくて、ふふっと笑ってしまう。
心地いい。
「飯、食えそう?」
出汁のいい匂いに鼻をひくつかせて、うん、と頷いた。
……和食かな?
「蕎麦だよ。お前好きだろ。あったかいかけそばにしたから、すぐ準備するわな」
そういって、立ち上がろうとした翔の腕をあわてて掴んだ。
翔は、なに?というように振り返る。
俺は、黙った。
あまりにも自然体すぎて……。
ひょっとしてさっきまでのやりとりは夢だったんじゃないだろうか、とすら思う。
じっと黙って見上げる俺に、翔は、やめてくれ、といって苦笑いした。
「そんな物欲しげな顔するなよ。俺、これでも我慢してんだぞ」