キラキラ
第19章 バースト3
Satoshi
「……ついたぞ」
暗がりのなか、温かい手のひらが俺の太もものあたりを優しくさすった。
シートを軽く倒してもらった状態で、すっかり眠っていた俺は、昌宏さんがかけてくれたブランケットを引き上げて、「もう少し……」と呟いた。
「俺はいいけどな」
低く笑ってその大きな手が、足をポンポンとたたいた。
俺もくすりと笑って、引き上げたブランケットから、目だけをだしたら、昌宏さんは優しく笑んでいた。
もうお別れの時間かあ……早いなあ。
久しぶりにお邪魔した昌宏さんの部屋。
昌宏さんが作ってくれた料理を食べ、当然と言えば当然の流れで愛し合い、離れがたい気持ちのまま自宅マンション前まで車で送ってもらってきたところだ。
腰から下は重だるく、体もあまり動かしたくない。
寝ておけ、という言葉に甘え、ずっと体を横たえていた。
昌宏さんを見上げて、
「……何時?」
と、聞くと、
「10時半だな」
時計に目を走らせて、静かに答えてくれた。
明日もお互い仕事だし。
平日のデートは時間が短いから残念だ。
起きあがらなきゃいけないのに、帰りたくなくて起きたくない。
グズグズしてたら、ハンドルに寄りかかって前方のエントランスを見つめていた昌宏さんが、「お。翔じゃん」と呟いた。
翔…?
寝そべったまま、顔だけそちらにむけるが、シートが倒してあるから、ここからは見えない。
すると、しばらくして昌宏さんは、ヒュウと口笛をふいてニヤリとした。
「……あいつ、チュウしてるぜ。」
やるなあ、マセガキ、といって肩をゆらして笑ってる昌宏さん。
……弟のキスの現場なんか居合わせたくないぞ。
俺は複雑な気持ちのまま、目を閉じた。
女子大生とは、別れたっていってたけど。
また新しい彼女つくったんだ。
つか、部屋に連れ込んでたな……家にはあんまりあげんなっていってんのに。
大体何時だと思ってんだ。
女の子の親心配するだろーが。
帰ったら一言いってやんなきゃ。
ぶつぶついろんなことを思ってたら。
「にしても相手の子、美人だなー。翔もたいがい面食いだな」
感心したように昌宏さんがいう。
……知らないよ。翔の好みなんか。
黙ってたら、昌宏さんは、
「ま、でも智の方が美人だ」
と、あっけらかんと言った。