キラキラ
第21章 ひぐらし ~バースト4~
正直、俺にしたら、高一の英語なんかも楽勝なんだけど。
ここは、あえてあのマネージャーに花をもたせてやることにして、俺は黙っていることにした。
他の部員にも、英語はパスって言ってさ。
でも…
本来、俺は、相葉くんに勉強を教えたいから、こんなとこまできたわけだし。
ぼんやり二人をみてるのもつまらないんだけどな。
俺は、既に水になりつつあるコーラをちゅうっと、吸って、何気なく二人が頭をつきあわせてる姿を眺めた。
なんだか、胸がちくりとした。
……面白くないなあ。
相葉くんの笑顔が別の人間に向けられるのは。
……少なくとも俺が見てる時は、なんか嫌なもんだな。
ふうっとため息をつき、店内にある壁掛け時計を見ると、もうすぐ七時になろうかというところだ。
……そろそろ帰ろうかな……。
店内の空調に、体もいい感じに冷えた。
むしろ、逆に風邪をひきそうなくらい。
……そーいや、翔さん……どうなったかな。
ぼんやりしてたら、
「二宮さん。これなんだけど……」
向かい側からあがった野太い声に、視線をやる。
真っ白なノートと、テキストを前に途方にくれている茶髪の部員。
真っ白って…あんた。
苦笑いしながら、テキストに指を滑らせてやった。
「…それは、銅の酸化と、マグネシウムの酸化の割合を覚えたら解ける。ここに書いてあんだろ」
そうして、黄色のマーカーで、その法則が書いてある場所にとびきりでっかい丸をつけてやり、俺は、傍らのリュックを引き寄せて立ち上がった。
「……ごめん、俺そろそろ帰るね」
「えっ?!」
眞下で聞こえる戸惑う相葉くんの声。
じゃっ…じゃあ俺も…!と、相葉くんがバタバタノートを閉じかけると、マネージャーが鋭く、
「まだ終わってないわよ」
と、制した。
……怖ぇー声だな。
心でつっこみながら、俺は年上らしく穏やかに笑ってみせて。
「ありがとう。もう一人でも大丈夫だから」
「え、でも……」
「またね」
手を振ると、相葉くんは何ともいえない顔をした。
つぶらな瞳で、じいっとこちらをひたすら見つめて。
まるで、置いていかれる子犬みたいに。
……そんな顔すんなよ。
「二宮さん、また是非来てな!」
「あざーした!」
口々に礼をいう部員たちにも手を振り、俺はにっこり笑って店を出た。