キラキラ
第22章 1ミリのユウキ
「これで、全員かな」
潤が、グランドで遊ぶ園児たちを見つめながら、ほっとしたように呟いて、俺に向き直った。
「じゃ、俺、室内の園児見てくるから、櫻井先生グランドよろしくお願いしますね」
「え?」
にっこり笑って、颯爽と去って行きかけた潤の腕を、慌ててつかんだ。
「ちょっ……潤!」
待て待て待て!
説明してくれ!
今、一番状況が分かってるのは多分この男だ。
何がなんだかわからない俺に、是非とも一から説明してほしい。
ところが、焦ってる俺を冷ややかに見つめた潤は、腕をそっとはずしながら
「……ここでは松本先生だろ」
と、真顔で言い返してきた。
う……
怖い顔。
表情のない潤の顔は、キョーレツだ。
低い声も、なにもかも迫力ある。
俺の方が年上なのに。
だけど、怯んでもいられない。
俺は、潤の怪訝な目を、しっかり見つめ返した。
「ま、松本先生。どーいうことか説明して?」
「なにを」
「これ、なんの番組の企画?カメラはどこ?」
矢継ぎ早に問いかけると、潤は、一瞬ぽかんという顔をした。
「マネージャーと連絡がとれなくて……」
マジで困ってさあ…と続けようとしたら、
「言ってる意味がわからない」
ぽかんとしていた潤は、取るに足らない話と判断したのか。
めんどくさそうにバッサリ話を切った。
そして、
「まだ寝ぼけてるの?櫻井先生」
言い捨てて、潤は、俺を置いてさっさと建物に入っていってしまった。
……潤?
呆気にとられて、その後ろ姿を見送る。
……こんな強気なあいつ見たことない。
こんな、冷ややかな表情、俺に向けたことない。
……まるで別人のようだ。
茫然としてその場に立ちすくんでいたら、ジャージのすそをちょいちょいと誰かに引っ張られた。
「?」と視線をおとしたら、小さな手に、真ん丸の泥団子をのせて、ふにゃあっと笑う園児。
…………!
息をのんだ。
「さくらい先生、これあげる」
にっこり笑って、差し出された団子。
年齢にしたら、完成度の高い団子を作成したと思われる男の子。
ふにゃふにゃした笑顔と、たれ目。
鼻筋だけは、すっと通っていて、整った顔立ちをしてる。
見覚えのある面影をもつその子の胸には、
おおのさとし
と、マジックでかかれたチューリップの名札がぶら下がっていた。