
キラキラ
第22章 1ミリのユウキ
膝に大きな絆創膏を貼って、ヒョコヒョコ戻ってきたかずくんに、ともくんは「ごめん」と言った。
かずくんは、一瞬だけ固まったけど、ともくんのしょんぼりした顔を見て、にっこり笑って「いーよ」と言った。
やがて、誰彼となくみんなで、ドッジボールを始めた姿を眺めて、俺は、すごく嬉しくなり、微笑ましい気分になった。
幼稚園の先生という職業の醍醐味って、こういうところにもあるんだろうなって思う。
子供って……いいよなあ。
大人と違い、ケンカしても仲直りはすぐできるし、何より素直だ。
ただ、言葉が足りないだけなんだよね。
手がでちゃうのも、きっと、話し合いという手段がもどかしいから。
くすりと笑って、俺は、少し離れたところでみんなの笑顔を見守る。
アイドル業や、キャスター業では、けっして味わえないこの気持ち。
こんな立場になってからこそ気づけることがある。
いやにリアルな夢だけど、これはこれで楽しいな。
さっきまでもめてた時の表情とは全くちがう、弾けるような笑顔のともくん。
彼の水色のスモックの胸にさがってるお花形のバッジには、「ながせともや」の文字。
タンポポ組の長瀬くんのちっさいのは、すごーくケンカっぱやいのが分かったのも面白かった。
そして、その長瀬くんに相葉くんが、向かっていく図式も愉快だった。
夢から覚めたら、相葉くんに教えてやろう……。
そんなことを思いながら、視線をめぐらす。
グランドのすみに小さな砂場がある。
何人かがそれぞれいろんなものを作っているようだが、そのなかでも、一心不乱に何やらスコップを動かしてる子が目に入った。
「……」
俺は、次にそちらに足を向けた。
「さとしくん。何つくってんの」
穏やかに問いかける。
靴を脱ぎ、靴下も脱ぎ捨て、さとしくんは裸足で砂場に大きな山を作っていた。
スコップで、ぺんぺんと山肌をたたきながら、さとしくんは、俺をチラリとみあげた。
「富士山」
「お。日本で一番高い山じゃん」
「うん。…先生もてつだって。めちゃめちゃ大きいのつくるから」
「おーし」
俺は、砂場に無造作に転がってるスコップを手にとり、張り切ってサクッと砂を掘った。
さとしくんは、足元のバケツから、少しずつ水をかけ足しながら、サラサラの砂をかためていく。
…もはや造形のプロだな。さとしくん。
