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キラキラ

第22章 1ミリのユウキ


「なんかさー、先生、今日は、やさしいね」


山に砂をかけながら、さとしくんが面白そうに言うから、俺は、そうか?と、手をとめた。

泥だらけの手で、山肌を固めながら、俺をふにゃっと見上げる目は、大野さんそのもの。

なんだか、くすぐったくなり、いつも優しくないの?って聞いてみた。

「ううん……いつも優しいけど。なんか、今日は、ダメンズ」


ダメンズ?!

よく、そんな言葉知ってんな?!

スコップを持ったまま、ひっくり返って、ははっと笑ってしまった。

ま、確かに幼稚園の教諭としての働きは、してないだろうな。
だって何していいかわからねぇし。


「……今日は、松本先生に頑張ってもらう日だからな」

にっこり笑って砂をかけた。
さとしくんは、ふうん……と頷いて、またもや爆弾をおとした。

「さくらい先生、まつもと先生のこと好き?」

「………」


これ。どう答える?

俺らにとっちゃ生々しいけど、園児にしたらただの人として、聞いてるんだよな?

…まあ。夢だし。


「…うん。好きだよ」

「あいしてる?」

「……さとしくん。それ、お母さんがいうの?」

「うん。かーちゃんは、さくらい先生とまつもと先生は、こいびとだっていうよ」

「……」

いやいや……まあ、夢だし?

でも、なんだか小さいというだけで、中身は大野さんだ、という気分にすらなってきた。

明らかに他の園児とは違い妙に大人びてるとことか。
なんでも知ってそうなとことか。

リアルな大野さんには、これまでたくさんお世話になってるし話も聞いてもらってるせいか、なんだか、誤魔化したくなくなってきて。


「うん……愛してるよ」


気がつけば、園児相手に本音を吐露してた。


すると、さとしくんはふわりと笑って、俺に言った。

「ちゃんと、まつもと先生に、言ってあげなきゃダメだよ。それ」

言わなきゃ伝わらないよって、さとしくんは、穏やかに言う。

……いったい君は何者だ?

園児だろ?

思わず固まってしまったのは、一瞬。

でもすぐに、なんだかおかしくなってきて、くすくす笑ってしまった。


……さすが、大野さんのちっちゃい盤だよ。


俺は、頷いた。


「そうだね……」


この夢から覚めたら、きっと言うよ。潤に。


会いたいって。
愛してるって。


言葉って……大事だね。




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