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キラキラ

第22章 1ミリのユウキ


外遊びが終わって、部屋に戻ると、潤の右手の人差し指と中指には大きな包帯が巻かれていた。
きつい湿布薬の匂いがする。


「……なに。どうした、それ」


思わず険しい顔になったら、潤はばつの悪そうな顔で、ごめん……と言った。


「さっき、扉ではさんだ」

「骨に異常はありそうか?」

「……ううん。ちょっと腫れてるくらい」


櫻井先生、ピアノお願いしてもいい?


と、申し訳なさそうに潤がピアノを指差した。

今から、歌の時間らしく、いつもは俺が園児のまえにたち、潤が伴奏してるそうだ。


……潤がピアノ。


それはそれで、レアだから見たかったかもしれないな。
不器用な代名詞のような男だから、貴重だよ。


ちょっと残念に思いながら、ピアノならなんとか俺でも面目はたちそうだ。
初見でも、いけんだろ……多分。

いいよ、と椅子に座って鍵盤に軽く指を滑らす。
久しぶりに鳴らすピアノが、園児と歌う曲とは思わなかった。

潤の指揮で譜面を見ながら、弾くのは、昔から誰もが知ってる童謡。

そして園独自が設定する今月の歌。

同じフレーズの繰り返しに、少し顔を後ろにむける余裕ができ、周りを見渡す。

大きな声で口をあけて歌ってる園児たちは文句なしに可愛い。
楽しそうなまーくん。
ちょっと遠慮がちに歌うかずくん。

さとしくんは……俺の近くにいた。

耳をすませば、相変わらずきれいな声をしてる。

本当にいろーんな意味で園児にしとくにはもったいないよな、この人。


歌が終わったら、何故か拍手喝采。
園児たちは、口々に「さくらい先生すごーい!」というし、潤は潤で、目を丸くして、「やるじゃん、櫻井先生!」という。


……え?


何事かと思えば、どうやらいつもの俺は、超がつくほどピアノが下手で、聞けたものじゃないらしくて。
その下手さは、園児たちから「櫻井先生は弾かないでいいよ」と言わしめるほどなんだと。


……それってどーなの。


複雑な思いで、手をあげ、「ありがとう」と、笑顔で喝采に応えてみた。





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