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キラキラ

第22章 1ミリのユウキ

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お先でーす、と、仕事を終えた教諭たちが次々に帰って行く。


「松本先生、お大事になさってくださいね」


養護教諭からかけられる言葉に、潤が申し訳なさそうに、ありがとうございます、と言った。
腫れがひくまで安静に、だそうだ。
所謂、日にち薬ってやつだな。


パタン……と、扉がしまり、みんな出ていったのを見届けて、潤が、ふうと吐息をついた。


潤が右手を負傷したため、筆記用具を使うことができず、日誌や報告ものなどのデスクワークを俺が二人分こなしているために、時間がかかっているチューリップ組である。

他の先生たちをずっと待たせておくのも申し訳ないので、戸締まりを俺たちがして帰り、みんなには先に帰ってもらうことにした。

俺的には、実技より、こういう風に机にむかう方が性にあってるとは思うが、初めての仕事内容を、初めてみる書式に埋めていく作業は、容易ではない。

見よう見まねでやるには限度があり、さっきから頭を悩ませながら片付けてる最中だ。


「……ごめんね」


潤から発信の、何度めか分からない謝罪の言葉。

しょんぼりした声音に、ついつい笑いがこぼれる。
朝から俺を攻撃していた、キツい口調はどこいったんだか?


「いいよ。気にすんな」


これもまた何度言ったか分からない台詞。

潤のためならこんなことなんでもないけれど。



どーでもいいけど、まだこの夢から覚めれないのかな……俺。



無駄にリアルだから、サボったり、無茶苦茶するのも性格上できなくて、くそ真面目にこの設定をこなしてるけれど。

ちょっと疲れてきた。


「コーヒーいれるね」

「……いいよ。松本先生、その手で無理だろ」

「大丈……あっつ!!」

ポットの注ぐボタンを右手でおしこむ力が定まらず、本体自体が動いて、熱湯が派手に潤の手にかかるのをみた。

言わんこっちゃない!


「バカ!大丈夫か?!」


慌ててボールペンを放り出し、駆け寄った。
もはや、潤は泣きそうな顔をして首をふってる。


「大丈夫っ!ごめん」

「ごめんじゃねえだろ。見せてみろ」


隠すようにしてる左手を無理矢理ひねりあげて、蛍光灯の下にさらせば、甲が赤くなってる。

無言でぐいぐい引っ張っていき、流し台に手を差し出させ、水を勢いよくだす。

ジャージャー流れる水が、白い肌をながれてゆく。

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