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キラキラ

第22章 1ミリのユウキ


「今日は、踏んだり蹴ったりだな」

シンクの前で潤の手を支えながら、笑ってやったら、潤は小さくなって、「……本当にね」と、呟いた。


間近にみる潤の横顔。
しょんぼりとうつむくその目は、ゆらゆら揺れていて。
どうしようもなく落ち込んでるのがみてとれた。


責任感のあるやつだからな。
俺が二人分の仕事してるのに、手伝えない不甲斐ない自分に我慢できないのだろう。


気にすることないのにな。
それより…


「どーすんの。右手も左手も痛かったら、なんにもできねぇじゃん」

「……そうだね。でも、まあ火傷はなんとか…」

「ヒリヒリすんぞ、これ。薬は?家にあるのか?」

「…たぶん」

言って、こちらを見た潤と、パチリと目があう。


潤んだ大きな目。
薄く開いた唇。

ドキリとする。

いつもの自信にみちあふれた顔とは、180度違う。
まるで捨て猫のような、すがる瞳。



「……」

「……」
 

潤が吸い寄せられるようにゆっくり顔をよせるのと、俺がそっと顔を傾けるのが同時だった。


柔らかく重なる唇。


あいてる左手で、そっと潤の後頭部を引き寄せる。
潤の右手が俺の背中にまわった。


シンクをうちならす水道の音だけの静かな空間に、リップ音を響かせて、深くて甘いキスを繰り返した。


「……ん……んっ」

「……じゅ…ん…濡れる」

「はあ……ん……」

潤は水道の下から、支える俺の手をふりほどき、
体をこちらに向け、俺の首にしがみついてきた。

まだ、冷やした方がいいんじゃねーか、と野暮な言葉が一瞬頭をよぎったが、手探りで蛇口をしめ、濡れた手のまま、俺もその細い体を抱きしめた。

角度をかえながら、より深く唇を重ねていく。


しんとした職員室に、いやらしい水音と、どちらからともなく漏れる甘い吐息だけが響く。


青白い蛍光灯の下、普通ならありえない場所でしてしまうキスに、どうしようもなく興奮してきた。


「はぁ……っ」


つーか、キスもご無沙汰なんだって……。


柔らかい唇を存分に感じていると、潤がその左手で俺の主張しはじめたものをなであげたから、一瞬体が跳ねた。

「っぁ……」

「…ね、これ欲しい……」

「……?!」

ちょうだい、と潤は俺のジャージにするりとその冷たい指を滑り込ませた。


ちょうだい?


え、待てよ。
俺がするの?

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