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キラキラ

第22章 1ミリのユウキ

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瞬きをひとつした瞬間、魔法のように景色が入れ替わっていて。 

ついさっきまで、白い不思議な空間にいた俺は、
自宅のソファにちんまりと座っていた。

エアコンは稼働していて、空調は適温。
着てる服は、いつもの黒のスエット。
ローテーブルには、ビールの缶と、中身が半分になってるグラス。

管理人は23時からスタートとか言ってたけど、壁時計をみれば、本当にキッカリ23時。

俺が、自分の部屋でくつろいでる最中の時間に、ぽいっと放り出された感じだ。

いきなり、この設定に馴染めといわれても…。

とりあえずグラスを手に取ろうとして、膝の上をみたら、スマホの画面が青白く光ってる。


「……?」

 
手に取れば、こちらから発信中の文字。
発信先は……


「…潤だ」


ここまでご丁寧にお膳立てしてくれるなんて。
あの管理人は何者なのだろう。


やがて画面は、発信中から、通話中に切り替わって、もしもし、という、よく知る声が小さく聞こえてきた。

俺は、ごくりと息をのみ、スマホをそっと耳にあてた。

「…もしもし」

「翔くん……?どうしたの」


心地よい響き。
潤の、翔くん、と呼ぶ声が好き。
いや、それはどうでもいい。


「……うん。いや、あの…」


ためらいながら、時計に目を走らせる。
23時は……もう遅い。

この時間から会いたいなんて言ってもいいのか?


迷惑じゃないだろうか。
ワガママじゃないだろうか。


「翔くん?」


ウザくないだろうか。
重くないだろうか。


「……えっと……今、外?」

「……家だけど」

「……あの……」

「……うん」

「…………その」

「……うん」


言い淀む俺を辛抱強く、潤が待ってくれてるのがわかる。


俺は……会いたいんだ。
潤は、どうなんだろうか。


……いや。
遠慮しちゃダメなんだよな…。


「……翔くん。何かあった?」


問いかける声音に、心配の色が混ざってきた。


「あの……潤」

「ん?」

「……………会いたい」

「…………」 

「……えっと…」

ああ、ダメだ。
夜遅いから、やっぱいい、と言いかけたら、その呼吸に被さるように、潤が静かに聞いてきた。

「翔くん、今、家?」

「……ああ」

「30分で着くから待ってて」

「…わ、分かった」

「うん。じゃあ」

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