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キラキラ

第22章 1ミリのユウキ


このまま泊めてね

にこにこと言われた言葉を胸で反芻し、そうか…とわけわかんない返事をしてしまった。


っていうか。
そうだよな、
こんな時間から呼び出しておいて、帰らせる方が鬼だろ。


今更ながら、胸が高鳴る。

潤を思い、自分を慰めた数日前には、もっと俺を欲しがれ、と一人毒づいた。
なのに、急に緊張してきた自分に、つっこむ。


……いやいや、俺ら恋人同士だろ。
今さらだ。
初めてってわけじゃない。


悶々としながら、冷蔵庫から、冷たいビール缶をだし、小皿やら箸やらを準備する。
持っていくね、と運んでくれる潤の後ろ姿は、スエット上下という完全な部屋着だった。

「おまえ、そのままの格好で来たの?」

思わず声をかけた。

にのじゃあるまいし。
外に出るときには、きちんとした格好を心がけている男が、いやにリラックスした服装だ。

すると、潤は振り返り、にっと笑って、ハンガーに吊るしたコートを指差した。

「だって。上にコート着たら分かんないでしょ。道中はタクシーだし」

「……まあ、そうだけど」

それに……と言いながら、潤はテーブルに小皿とグラスを並べて小さく言った。

「俺も早く会いたかったし」

「……」

早口で言われたその言葉に、持ってた皿を取り落としそうになった。


あっぶね!


そんな俺を見て、潤はくすくすと笑った。
そして、

「ね、翔くん」

「……ん?」

「こっち来て」

こちらに向かって出された手。

「……」

俺は、誘われるようにゆっくりと歩みより、潤の手を取った。
そしたら、その手に静かに力がこもり、引っ張られたから、されるがままに潤の胸に体を預けた。

ふわりと潤の腕が俺を抱き締める。

「……」

潤の香り。
既に風呂に入ったあとなのだろう。
いつもの香水の香りはしない。 
潤の家の柔軟剤と、ソープの微かな香り。

すうっと吸い込み、肩口にこつんと顔をのせた。

そして。

ゆっくり、俺も潤の広い背中に自分の腕をまわした。

「……翔くん……」

小さく囁かれギュウっと、抱き締められた。

トクトクとなる鼓動はどちらのものか。

久しぶりに触れた潤の体温に、心がきゅっとなる気がした。


ああ……やっぱ、俺はこいつに惚れてるんだな。


幼稚園で、抱き締めた細い体も、今、俺を抱き締める広い胸も。
全部……好きだ。

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