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キラキラ

第24章 バースト5


しばらく歩いて、智さんたちは、ひとつのビルの前で立ち止まり、少し中をのぞいていたかと思ったら、笑顔で中に入っていった。

「俺たちも行く?」

かずが顔をあげて、俺らを見る。

いや…個展をするような場所って、普通こぢんまりしてないか?
入ったらバレるよな。さすがにきっと。

俺は首をふった。

それに、智さんの恋人が個展を開いてるなら、きっと智さんは一人で訪れるだろう。
あんなお邪魔虫は連れていかない。
少なくとも、俺ならそうする。

……ということは、今日は、空振りだったってわけだな。残念だけど。


「今日は…智さんの恋人には会えそうもなさそうだな」

肩をすくめてかずを見る。

かずも同じことを感じたのか、あーあ、残念ってぼやいた。 

まあな。
まあ、機会がありゃ、またいつか会えるさ。

がっかりした俺らの間を、ぴゅうっと北風が吹き抜けた。
かずが、細い肩を縮める。

「さっぶー……」

「あー、もう。建物ん中入ろうぜ」

なんか気が抜けたら急に寒くなってきたよな。
寒さで真っ赤になった指を擦りあわせる。

ふと。

「あれ??雅紀?」

雅紀の姿が見えない。

キョロキョロすると、大胆にも雅紀は、ビルの前を通りながら、さりげなく中を覗いてる。

「ばかっ!バレる!」

かずが、慌てて手招きしたら、雅紀は、にやっと笑って、風のように身を翻して走ってきた。

「大丈夫。智さんたちこっちに背中むけて、作品見てたから」

「どんな人の個展か分かったか?」

「うーん、智さんたちとしゃべってた人かな」

「ガタイはよかった?」

「ううん。なんかね、小柄で、仙人みたいな人」

「仙人?!」

かずと二人で声をそろえた。

「男前は男前なんだけど。髪も長くて、ひげもあって、黒いながーい服着てた。これぞ芸術家って感じの人だったよ」

「へぇ……」

やはりはずれだな。
智さんの恋人には、不適合なルックスっぽい。

俺は、ビルの前におかれた看板に目をこらした。
そこには、達筆な字で、「堂本剛」と、書いてあった。

マサ……なんとかさんではない。

やはり、智さんの恋人ではない。

この時点で、今日のミッションは終了だった。

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