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キラキラ

第24章 バースト5

こういうときこそチカラを使えばいいんだろうが、どのみちこの姿じゃ、よその部屋にはあがれないから、大野家のベランダというわけにはいかない。
大体にして、寒すぎて集中できそうにもないや。

はあっとかじかんだ指先に、息をふきかけても、白い息が出ただけでちっとも温かくない。

玄関先で、翔にパンを渡して。
……帰るか。

翔と過ごしたいのは山々だったが、こんななりでは、迷惑だろう。

ついてねぇな……。

俺は、青信号を確認して、再びダッシュした。



大野家のあるマンションに到着し、エントランスに飛び込んだら、ちょうど住人がでてきたところで、一階の自動ドアはパスできた。
エレベーターで最上階へ。

つきあたりの重厚な扉の前で、インターホンを鳴らす。

ところが……なんの反応もない。


「………あれ」


もう一度鳴らす。


なんで?まさかの留守?
買い物でも行ったんだろうか。

……パンどうしよ。こんなに買ったのに。

がっかりして踵をかえしかけたら、唐突に扉がガチャリと音をたてて開き。

「待て待て!帰るな!」

翔の焦った声がその隙間から聞こえてきた。

……なんだ、いるんじゃん、とあけられた扉の前には誰もいない。

それは翔がチカラを使ってあけたことを意味する。

「……翔?」

そっと声をかけながら玄関をくぐると、廊下のむこうの扉から、半裸の翔が頭をだして「もう、帰ってきたのか?」と、言った。

俺は思わず目を見開き動きをとめた。
白い肩や胸が見えて、髪の毛からは水が滴ってる。腰にはバスタオル。
香ってくるボディーソープの匂いに、翔が風呂に入っていたことが分かる。
少し上気した顔をほころばせ、ごめん、と翔が言う。

「昨日、風呂入らないで机で寝ちまったから、シャワー浴びてて……って、お前びっしょびしょじゃねぇか!」

「あ……雨が降ってきて」

でも、これはビニールだから濡れたけど大丈夫、とパンの袋を差し出したら、翔が慌てて手招きした。

「ちょ……おまえ、こっちあがって来い!」

「え」

「風呂入ってあったまれ!まだ、お湯はったばかりだから冷めてねぇし」

いや、でも……


戸惑って立ち尽くしてたら、ふわりと体が浮いた。


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