
キラキラ
第3章 フラワー
タクシーをおり、エントランスに小走りで入る。
(えーっと……)
記憶力を総動員して部屋番号を思いだし、パネルに入力してコールする。
……応答がない。
やはり留守なのか。
でも、なぜだか根拠のない確信があった。
一日中つながらない電話。
なんともいえない胸騒ぎ。
(10回鳴らして、ダメなら帰ろう)
しばらくここで粘りたいけど、住人と鉢合わせは、あまりしたくない。
もう一度コール。
もう一度。
もう一度。
もう……
『…………翔くん……?』
繰り返し繰り返し、何回もキーを押していた指が、ピクリと止まった。
応答のランプがつき、スピーカーから小さく聞こえる潤の声。
(…………いた)
『……なんで?』
(……は?)
急激に腹がたった。
俺は、大きな声にならないよう気をつけながら、苛立ちをぶつけた。
「……なんでじゃねーよ。なにシカトしてんだよ。開けろ」
『あの……ちょっと……熱あって。うつすといけないから……』
「……熱?」
『……だから…』
「……、じゃ、なおさら開けろよ」
『翔くん……』
「開けろよ」
『………』
「開けろ」
低い声をだすと、しばらくの沈黙ののち、目の前の強固なガラス扉がガーッという音とともに開いた。
一ヶ月まえに、ドキドキして歩いた廊下を、今は苛立ちながら足早に歩く。
勢いよく玄関の扉を開けると、壁に、もたれかかり、立ってるのもやっとというような潤がいた。
「潤……」
「………翔くん…」
なんで、来たんだ、というような戸惑う瞳を完全に無視して、さっさと靴を脱ぎ、潤の額に手を滑らす。
熱い額とは、対照的に、潤の手足は小刻みに震えてる。
「寒いのか?」
「……ん……ちょっと……」
「ベッド戻れよ、ほら」
手にふれると、恐ろしく熱くてびっくりした。
「……心配しなくても、俺は頑丈だから、うつらねえよ」
少し笑ってやると、潤は曖昧に笑った。
ベッドに横になった潤の枕元に座り、頬に手をあてる。
「高そうだな……熱、測った?」
「……いや、高いって分かったら辛くなるから測ってない」
「なんか食った?」
「……なにも」
「薬は」
「飲んだら吐いちゃって……」
「水は」
「……飲めない……」
「…………なにしてんだよ」
ため息をつく。
