
キラキラ
第3章 フラワー
なかなか連絡がつかなかった理由はこれなのか。
苛立ちより、やるせなさが募ってくる。
なんで、頼ってくれないんだろう。
一言言ってくれたら、駆けつけるのに……。
(俺ら恋人になったんじゃないの?)
潤のことだから、心配かけたくなかった、だとか、言うんだろう。
浅い呼吸で、潤んだ瞳で見上げてくる潤が、健気にみえて、俺は髪の毛を優しくすいてやる。
とりあえず、食うものと、飲むものを調達しなくちゃな…。
「俺、今日は車じゃないんだ。キー貸して?ちょっと買い出ししてくる」
「………カウンターに置きっぱなし」
「オッケ」
頬に手をあて、親指で目の下をそっとなでる。
潤が気持ち良さそうに目を細めた。
いつもは艶やかな唇も、今は、がさがさで、痛々しい。
「じゃ、寝てろよ」
「………うん…」
言って、寝室から出た。
キッチンに入り、驚く。
(……なんだ、これ)
アルコール類の空き缶や、空き瓶が無造作に散らばり、いつもは片付いてるシンクも、グラスが散乱してる。
誰か来てたんだろうか?
自分一人で飲んでたのだろうか?
どちらにしても。
(飲みすぎ)
こんな飲み方してるから、体こわしたんじゃねえの?
バカか。あいつは。
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J
最初は、無視してたけど、あまりに続くピンポンに、舌打ちして、起き上がった。
(うるせ……誰だよ)
フラフラする体を、壁づたいにささえながら、モニターを確認して、心臓が跳ねた。
俺が一番会いたいけど、会いたくなかった人が、眉をしかめて映ってる。
(なんで………?)
無意識に応答ボタンを押してしまっていた。
寝室に移動しながら、黙りこくる俺に、俺は頑丈だから、うつらねーよ、と、翔くんは笑う。
あきれたような顔をしながらも、眼差しは、心底俺を心配してくれているのが分かる。
嫉妬、というくだらない自分の凝り固まった黒い思いが、だんだん溶けてゆく。
翔くんの、冷たい手が頬にふれ、指をなぞらせる感覚が気持ちいい。
割れるような頭痛も、翔くんの声をきいてると、やわらいでくるから、不思議だった。
じゃ、寝てろよ、と部屋をでていく翔くんの後ろ姿を見送り、俺は気だるく目を閉じた。
