キラキラ
第25章 Count 10
放課後になった。
号令とともに国分先生が教室を出ていったと同時に、松潤が俺の腕をつかんだ。
「ちょっと雑務があるから、智も生徒会室来て」
………別に逃げやしないよ。
ちょっとおかしく思いながら、
「うん。分かった」
内心肩をすくめて、何も入ってない鞄をかつぎ、松潤に続いて教室をでた。
例によって、俺が通るたびにみんな一礼してゆく。
なんだか、むずがゆくて、俺の前を歩く松潤の腕を、今度は俺がつかまえた。
松潤が怪訝そうに振り向く。
「………?なに」
「あ………のさ。なんで俺、こんなにみんなに挨拶されんの?」
「………怖いからじゃね?」
戸惑いながら聞く俺に、松潤は、ふんと鼻をならして笑った。
何をいまさらと、言わんばかりだ。
「えらく優等生みたいな発言じゃん。ついこのあいだまで、誰彼構わず喧嘩ふっかけてたのは誰だよ?」
「………俺が?」
「目が合うだけで、蹴りが飛んできたって言う話だけど?」
「………俺が?」
「………」
「………」
松潤は、じいっと黙り、俺を見つめた。
射るような大きな瞳が、何か言いたげだ。
たまらずに、俺が、口を開きかけたと同時に、松潤は、困ったように首をかしげ、少し笑った。
「……なぁ、智さ、俺たちをからかってんの?」
「………いや………」
「遊びたいだけ?それともキャラ転換したいの?」
「………違うよ」
「………まあ、それはそれで面白いけど。………どこまで本気か、分かんないからさ」
松潤はそれだけいって、身を翻しかけたから、俺は、また松潤の腕をつかまえた。
「?」
「あのさ。俺さ。ほんとに忘れてるんだ。たぶん別人ってくらいに」
「………」
「ごめん。だから、いろいろ教えて………?」
なりふりかまってもいられない。
夢から覚めないなら、夢に従ってみるしかない。
とりあえずは、自分が過ごしやすいように、自分から変えていくしかない。
ここにいるのは、高校生設定の松潤なのに。
俺は、自分のよく知る松潤のような頼もしさを感じながら、困ったようにうつむいた。