キラキラ
第25章 Count 10
とは言うものの。
茂子さんの料理は、今朝のお粥もそうだったけど、絶品だった。
こんなにウマイものを、朝晩食べれるなんて、なんて、恵まれた寮なんだろう、と思う。
少し減らしてもらった白飯を、夢中でもぐもぐ口に運んでいると、早くも完食した相葉ちゃんが、のんびりと口を開いた。
「じゃあさ、おーちゃん。さっき生徒会室で、言ってた話だけどさ。おーちゃんの記憶喪失が、ほんとだったとするならさ。例えばどんなこと忘れちゃってるの?」
「………相葉くん、その質問おかしくない?」
にのが、ぼそりと口をはさんだ。
「何を忘れてるかなんて、わかんないでしょ」
「あ、そーか」
「………全部。わかんないんだ」
二人のやりとりを遮って、俺は告げた。
「………高校生としての自分がわかんない。高校生としてのお前らが、わかんない」
………っていうか。
そもそも別人なんだけど。
「待って。高校生としてってどういう意味?」
「高校生の、記憶だけないんだ」
ぽつりと言った俺に、翔ちゃんが、難しい顔をして、首をかしげ、隣の松潤を見やる。
「………そんなことってある?」
「聞いたことねぇな」
お茶をすすって、松潤が一蹴した。
全員の注目をあびて、なんだか、気恥ずかしくなり、俺は、味噌汁を飲むふりをしてうつむいた。
松潤は、前髪をかきあげながら、背もたれにどすんと座り、考えるように口を開いた。
「ただ………智が別人みたくなってんのは、確かだな。えらく可愛らしくなってる」
「そうだね。それは俺も同感」
うんうんと頷いた翔ちゃんに、にのも同調した。
「そういや、さっきさ、予算追加の申請書に、智にサインもらったけど、すごい綺麗な字だった。いつも汚いのに」
「こら、かず。汚いっていわない」
「………本当だもん」
へぇ………俺の字はいつも汚いんだ。
にのと相葉ちゃんのやりとりが面白くて、おもわず、ふっと笑ってしまった。
松潤は、そんな俺をじっと見つめて、呟いた。
「ほんとはこんなに綺麗に笑えんだな、智」