キラキラ
第25章 Count 10
迷った。
その優しさにすがりたいとも思った。
でも、どう言えばいいのか、どう説明したらいいのか。
俺は実は30を越えてて。
ここではない別の場所で、アイドルをやってて。
その上、年上の彼氏がいます、って、言うのか?
………頭がおかしくなったと思われるに決まっている。
長瀬くんは優しい目をして俺を見てるけど、どうしても言えなくて………俺は石のように黙りこむしかなかった。
しばらくの間、長瀬くんは寄り添ってくれていたけど、俺が話す気がないのをいい加減察したのか、残念そうなため息をついた。
「………まあ。話す気になったらいつでも言ってくれ。………それと。」
言いながら、長瀬くんは手にぶら下げてたビニールを俺に、「ん」と、つきだした。
「茂子さんから。今日も、お前あんまり食ってないらしいじゃないか。これ全部食うまで見張ってろって言われてっから、今すぐ食え」
「………?」
ビニール袋をうけとり、中身を取り出せば、それはラップに包まれた、まだ温かい玉子サンドだった。
軽くトーストされた厚めのパンに、ふわふわの玉子焼きがはさまっていて。
レタスはみずみずしくキラキラしてる。
「………」
………みたことがあるこのパン。
導かれるようにラップをあけ、ぱく………と一口かじった。
玉子焼きの甘さと、マスタードの辛さと………。
………これ………
ドキドキと心臓がなった。
これ………この味は。
松兄の家に泊まったら、朝食に松兄がよく作ってくれたサンドイッチによく似ていた。
というより、そのものだ。
俺は夢中で口に運んだ。
「………大野?」
「………っ………」
「どうした」
「……っ、……っ」
首をふることしかできない。
下を向いたら、ポタポタ涙が落ちた。
甘い卵が涙でしょっぱい。
ずずっと鼻水をすすりながら、残りのパンを口に押し込んだ。
松兄の味だった。
どうしてかわからないけど、この玉子サンドは松兄が作ってくれてたものと酷似してた。
「うっ……んっ………」
呻くような声がでた。
それが自分の泣き声だと、気づいたのは、長瀬くんに抱き寄せられ、背中をさすられたとき。
………松兄………松兄…………会いたい…
グスグスと子供のように泣く俺を、長瀬くんは俺が落ち着くまで、ずっとそばにいてくれた。