
キラキラ
第25章 Count 10
「え……っと」
口ごもる俺。
松兄は抱きしめる腕に力をこめ、楽しそうに言った。
「なんでだよ。いっつも偉そうに呼び捨てしてんじゃねぇかよ」
おりゃ、校長だっつってんのにな!と、ガハハと笑うこの松兄の笑いかたは、言われてみれば茂子さんに似てるかも。
まあ。俺様おーのくんなら、呼び捨てだろうね。
……だけど、俺は言えないなぁ。
黙って、そのままぎゅうっとしがみついてたら。
「なんでここに来なかった?」
大きな手のひらが、俺の後頭部を撫で、優しく問いかけられた。
不思議だった。松兄に触られるだけで、抱きしめてもらうだけで、心が凪いでゆく。
校長という立場の設定にも笑える余裕がでてくる。
「総会の準備で……忙しかったから」
適当なことを言って、俺は、離れまい、としがみつく手に力をこめ、松兄の香りを吸い込む。
松兄は、ふぅん…じゃ、しゃーねぇな…と呟いた。
しばらくそのまま抱き合っていたら、松兄が少し抱きしめる力を弱めて、俺の顔をみつめてきた。
澄んだ真っ直ぐな瞳が、俺の心の奥底までを見透かしてくるようだ。
この瞳に囚われる。
「あの……」
「なあ……」
「?」
「アザできてんじゃねーか。今日の騒ぎはおまえから喧嘩ふっかけたのか?」
「いや、違う」
「退学したいのか?」
「……したくない」
「もっと気を付けろよ」
「ごめん」
「フォローでききれないぞ」
「うん」
「……反省してんのか」
「してるよ」
最後の方は、クスクス笑って混ぜ返してたら、松兄がニヤリと笑って、呟いた。
「……なんか、おまえ。今日はえらく可愛らしいキャラだな」
「……そうかな」
「キスしたくなった」
ドキリと心臓が鳴った。
大きな手のひらが俺の頬を包んだ。
アザができてるあたりに、松兄の親指が心配そうにそっと触れる。
「…痛そうだな」
「大丈夫……ん」
松兄の唇が、チュッ……とアザに触れた。
くすぐったくて、少し肩をすくめる。
すると、その唇がそのまま、横にスライドし、俺の唇に柔らかく押し当てられた。
その唇の熱さに、胸も熱くなる。
「……ん」
二、三度、重なった唇は、徐々に深くなり。
当然のように差し込まれた舌に翻弄されながら、俺は、松兄がくれる久しぶりの刺激に、酔いしれたのだった。
