キラキラ
第25章 Count 10
松兄のマンションに到着した。
「腹へったか?なんか食べたいものあるか」
エプロンを手にして、キッチンに入りながら優しい笑顔を浮かべる松兄は眩しいほどに男前。
ここで、俺が何をリクエストしても、よっぽどのことがないかぎりは、松兄はちょちょいと作ってくれるのは分かってる。
………だからさ。
「なんでもいいの?」
「おう。唐揚げか。エビフライか。冷やし中華か」
……夕飯らしくないけどいいかな?
「卵サンド」
「………………夕メシだぞ?…」
松兄が目をテンにしたから、俺は思わずクスっと笑って、なんでもいいって言ったじゃん、と言い返した。
「松兄の卵サンドが食べたい」
「マジか?」
「マジ」
こっくり頷いたら、松兄は、ははっと笑い声をあげて、しゃーねーなぁ、と言った。
俺が頑固なのも知ってる彼は、俺の扱いなんてお手のもの。
「じゃあ、卵サンドと、ミネストローネくらいでいいか」
ほらね。さすが松兄。
「うん。ありがとう」
パンの買い置きあったっけか………と、キッチンの中をごそごそ動き出した松兄を見ていたくて、カウンターに座って頬杖をついた。
野菜を切る心地いい音を聞きながら、幸せな思いにひたる。
………ねえ。
あなたの卵サンドにそっくりなのを、茂子さんっていう人が作ってたよ。
笑えるでしょ?
俺、それ食べて寂しくて泣いちゃったんだ。
「………どうした?」
「なんでもない」
「そんな見られたら、緊張するじゃねーか」
「しないくせに」
「いや、俺だって、たまには緊張くらいするぞ」
長瀬くんもいたよ。
優しい人だった。
「………あとで、面白い話してあげる」
「へぇ………どんな?」
「卵サンドの話」
「は?面白いのか?そりゃ」
「うん。すごくね」
あなたが校長だったとか。
島茂子さんが食堂のおばちゃんだったとか。
そーいや、生徒総会どうなったかな。
つか、松潤たち大丈夫だったかなぁ。
「………なんだ。ニコニコして」
「嬉しいから」
「卵サンドがか?」
「うん」
「………面白ぇやつだな(笑)」
俺のすごい一週間を聞いて?
………で、最後に言わせてね。
………会いたかったって。
………愛してるって。
Fin.