キラキラ
第26章 10カゾエテ ~Count 10~
天然といえば聞こえはいいが、この翔のおとぼけ度合いが、いつか何かを引き起こさないか、一抹の不安がよぎる俺だ。
ましてここは野郎ばっかの男子校。
さらに全寮制という、特殊な環境にある。
全寮制あるあるでは、男同士でくっついちゃうことも珍しくないらしい………。
………絶対、こいつは狙われそうだよなぁ。
風呂の支度をしてる翔の後ろ姿を見て、複雑な思いだ。
例えばもし俺なら、誰かにせまられても断れる自信はある。
中学時代に何人かの女の子とつきあい、恋愛ってめんどくさい………なんて思っちまった派だからだ。
好きだ、と言われたからつきあったのに、女の子は、ちょっとしたことで泣くし、ヤキモチやくし、行動は縛られるし、もうさんざんで。
当分恋愛はこりごりだとすら思ってる。
だから野郎ばかりのこの生活がとても楽だし。
恋愛なんかいらないし。
………翔はどうなんだろうな。
「準備できた?」
「………おう」
「じゃ、いこいこ」
いそいそと歩いてゆく翔に続いて部屋を出た。
………この見た目。この性格。
同性から見たって魅力的だ。
もしかしたら、こいつを好きだ、という男が現れるかもしれない。
つか………まわりがほっとかないだろうな。
俺の勘では、きっとこいつは、何も知らない。
おそらくキスはおろか、人とつきあうこともしたことない気がする。
正真正銘ピッカピカの体だろう。
まあ、俺のようなタイプも大分早熟なのかもしれんが。
それにしたってな………いきなり、変な男にひっかかったりしなきゃいーけどな………。
ぺたぺたとスリッパをならし、浴場にむかう翔を見つめた。
「………なに?」
俺の視線に気づき、きょとんと見上げてくる大きな瞳。
わけもなく、守ってやりたい衝動が起こる。
そんな自分の感情に戸惑った。
これは兄貴のような感覚のなかでおきるものなのか。
父親のような正義感のようなものなのか。
それとも………。
「………いや、ないない」
「………あ」
俺が、独り言をいって首をふるのと、翔が小さい声をあげて立ち止まるのが同時だった。