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キラキラ

第3章 フラワー

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メイクを終えて、ソファーに沈みこんでると、首筋に冷たいものがあたった。

「……?」

気だるく目をあげると、ニノがスポドリを持って、「ん」と、おしつけてきた。

「……ああ。サンキュ」

小さく礼を言って受けとると、ニノは、ちよっと口を尖らして、

「大丈夫なの?」

と、聞いてきた。

「………なにが?」

手のひらから伝わる冷たさが気持ちいい。
さっきから、身体中が、暑くてしょうがない。
ぼんやりする頭が、冷たい感覚で覚醒する。

メイクが落ちないよう、首筋にボトルをあて、ゆっくり呼吸する。

そんな、俺をみて、ニノはふうとため息をついた。

「潤くんさ、間違えちゃダメだよ」

ニノは俺の隣にまわってきて、ちょん、と横に座り、至近距離で見上げてきた。
茶色い瞳がまっすぐに俺を捉える。
その額に小さく皺を刻んで、ゆっくり諭すように言う。

「無理をしなくちゃいけないときと。……しなくていいときを見極めなきゃ」

「……」

「ちなみに、今はどっち? しなくていいときなんじゃないの?」

ニノの言わんとすることを理解する。

(まいったな…)

裏で、動いたのは……

「……翔くん?」

ニノは、ふふっと笑って、俺の額に指を滑らした。

「朝。連絡あった……もー……あんた、あっついじゃん」

「……平気だよ」

(翔くんにはかなわないな……)

スポドリの蓋をあけて一口のむ。

自分の体調のことなんて、言わないで仕事をこなす。
実際、そうしようとしていたけど……。

甘えていい場面、頼っていい人間、そういうことを考えてもいいんだよ、と教えられる。

結局、それが、仕事の質をあげることにつながるなら、つまんない意地や見栄なんかいらないってことだよな。

俺の性格を見抜いての、翔くんの配慮と、抜群の勘で動こうとしてるニノに、当分頭があがりそうにない。

俺は、遠慮なくのっかることにした。

「じゃあ………撮影始まるまで、寝てていいっすか」

「了解」

ニノはソファーから立ち上がり、そのへんにあったブランケットやらを積み上げて、即席の枕をつくってくれた。

「ありがとう」

素直にでる言葉。

ニノは、にやっと笑って、携帯ゲームを取り出した。

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